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ビル・ゲイツの未来予想図【新たなウィルスとの闘いに備えよ】

マイクロソフト創始者ビル・ゲイツ氏が、新型コロナウィルス関連で英エコノミスト誌の最新号(2020年4月23日号)に寄稿しています。先が見えない昨今の状況で、慎重に言葉を選びながらも、本当にそうだったらいいな!という未来図を分かりやすく描いてくれていると思います。

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(原題)

The world after covid-19
Bill Gates on how to fight future pandemics
The coronavirus will hasten three big medical breakthroughs. That is just a start

 

(和訳)

ビル・ゲイツ、未来のパンデミックとの闘い方を語る
COVID-19は3つの医学上のブレークスルーを加速する:それはほんの始まりに過ぎない

 

後世の歴史家たちが今回のパンデミックを振り返るとき、私たちがこれまで経験してきたことはおそらく最初の3分の1程度にすぎず、これから先に起こることが、彼らの描く歴史物語の大部分を占めることになるでしょう。

 

ヨーロッパ、東アジア、北米のほとんどの地域では、今月末にはパンデミックのピークを過ぎるでしょう。数週間後には、昨年末の状態に戻ることを多くの人が願っていますが、残念ながらその見込みはありません。

 

私は、人類がこのパンデミックに打ち勝つと信じていますが、それは世界人口の大半がワクチン接種を受けた時点です。それまでは、以前の日常は戻らないでしょう。たとえロックダウンが解除され、店舗が営業を再開したとしても、人間は病気のリスクに身をさらすことを本当的に嫌います。空港には人が集まらず、スポーツの試合は無観客で行われ、需要と個人消費の低迷が続いて世界経済は大不況に陥るでしょう。

 

感染の拡大は、先進国での鈍化と入れ替わりに発展途上国で加速するでしょう。そして発展途上国は先進国よりもさらに苦しむことになります。遠隔でできる仕事が限られる貧しい国では、社会的距離を置く対策はあまり効果的ではありません。感染が急速に拡大する一方で、医療システムの対応は追いつきません。新型コロナウィルス感染症はニューヨークのような都市で医療崩壊を引き起こしましたが、それでもマンハッタンにある病院1つの集中治療室のベッド数は、アフリカの大半の国でのベッド数より多いというデータがあります。何百万人もの命が失われるかもしれません。

 

富裕国は、例えば、重要な物資が高値で取引されていないかをチェックするといったことで支援することはできます。しかし、貧富の差にかかわらず、ウイルスに効果的な医学的解決策、つまりワクチンを手に入れて初めて、人々の安全は確保されるのです。

 

今後1年の間に、医学研究者は世界で最も重要な役割の一つを担うでしょう。幸いなことに、このパンデミックの前から、ワクチン研究の分野は大きな飛躍を遂げています。従来のワクチンは、通常、死んだウイルスや弱体化したウイルスを体内に入れ、体に病原体の形を認識させることで効果を発揮します。しかし、研究者が大量の病原体の培養に時間をかける必要のない新しいタイプのワクチンがあります。これらのmRNAワクチンは、遺伝子コードを利用して細胞に免疫反応を起こさせるもので、従来のワクチンよりも早く開発できると期待されています。

 

私の希望は、2021年の後半までに世界中でワクチンが製造されるようになることです。もしそれが実現すれば、人類が新しい病気を認識してから免疫を獲得するまでの期間は史上最短となり、歴史的な偉業が達成されることになります。

 

ワクチンの進歩に加え、今回のパンデミックから、あと2つの大きな医学的ブレークスルーが生まれるでしょう。一つは診断学の分野です。次に新型ウイルスが出現したときには、妊娠検査と同じように、自宅でウイルス検査ができるようになるでしょう。ただし、検査紙に尿をかけるのでなく、鼻の奥を綿棒でぬぐうというやり方の違いはあります。研究者は、新しい病気を特定してから数ヶ月以内にそのような検査キットを開発できるようになる可能性があります。

 

3つ目のブレークスルーは抗ウイルス薬です。この分野にはこれまで十分な投資が行われてきませんでした。抗ウイルス薬の開発は、抗菌薬の開発に遅れを取ってきたのです。しかし、この状況が変わるでしょう。研究者たちは抗ウイルス薬の大規模かつ多様なライブラリを開発し、そこから新型ウィルスに効果的な治療法を迅速に発見するようになるでしょう。

 

3つのブレークスルーはいずれも、感染者がまだ非常に少ない時期の早期介入を可能にすることで、次のパンデミックへの備えとなるでしょう。また、その基礎となる研究は、既存の感染症との闘いや、がんの治療法の開発にも役立つでしょう。(科学者たちは、mRNAワクチンはいずれがんのワクチンにつながると長い間考えてきました。しかし、新型コロナウィルスが登場するまでは、妥当なコストでmRNAワクチンを大量生産する方法についての研究はそれほど行われていませんでした。)

 

私たちは、科学自体の進歩にとどまらず、誰もがその恩恵を受けられるようにする点でも進歩するでしょう。2021年以降しばらくの間、私たちは1945年以降の数年間の歴史から学ぶことになると思います。第二次世界大戦が終わると、指導者たちはさらなる紛争を防ぐために国連のような国際機関を作りました。今回のパンデミックの後、指導者たちは新たなパンデミックを防ぐための体制づくりを目指すでしょう。

 

これらの体制にはさまざまな国や地域、そしてグローバル組織が参加することになります。私は、これらの参加者が、軍隊が軍事演習を行うように、定期的な「病原体対策演習」を行うことを期待しています。そして、次に新たなウイルスがコウモリや鳥から人間世界に入り込んできたときにすぐ手が打てるようにしておくのです。これは、ならず者が研究室で感染症を発生させ、生物武器として使おうとした場合の備えにもなるでしょう。パンデミックに備えて練習を重ねることで、世界はバイオテロ行為から身を守ることができるのです。

 

私は、裕福な国がこれらの体制構築に貧しい国も招き入れることを望んでいます。特に、貧困国での第一次医療システムの構築に外国からの援助をより多く投入することが大切です。どんなに利己的な人、あるいは孤立主義的な国であっても、もはやこの点に同意するのではないでしょうか。今回のパンデミックは、ウイルスの仕業に国境はないこと、そして、好むと好まざるとにかかわらず、私たちは皆、微生物のネットワークによってつながっていることを明らかにしました。貧しい国に新型のウイルスが出現したとき、その国の医師がそれを発見し、できるだけ早く封じ込める能力を持っていることが望ましいのです。

 

私が挙げた予想はいずれも、当たらないかもしれません。歴史は決まった道筋をたどるものではありません。人々はどちらの方向へ進むかを選択し、選択を誤ることもあります。2021年以降しばらくの間、状況が1945年以降の数年間に似るかどうかも分かりません。しかし、今日この時点の状況を最も良く言い当てた演説の一説があります。1942年11月10日、ウィンストン・チャーチルは次のように言いました。ちょうど、イギリス軍が第二次大戦の陸上戦で最初の勝利をおさめた時でした。「これは終わりではない。終わりの始まりですらない。しかし、おそらくは、始まりの終わりなのであろう。」

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(所感)

最後のチャーチルの言葉の原文は、

“This is not the end. It is not even the beginning of the end. But it is, perhaps, the end of the beginning.”

となっています。

欧米での感染拡大がピークを過ぎたといわれるこの頃ですが、新型コロナウィルスとの闘いはもちろん終わったわけではないし、まだ終わりも見えない状況。だけれど第一波のピークは幸い過ぎたのかもしれない。まさに、今の状況を言い当ててますね。

 

それではまた。
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