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The Economist最新号が出ました(2020年7月25日号)

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Macroeconomics
Governments must beware the lure of free money

フリーマネーの誘惑
世界経済は新時代に突入した

 


The Economist July 24, 2020: Leaders: Free economy

 

<全文和訳>

2007-09年の世界的な金融危機の後、各国政府は経済政策の再考を怠り、この金融危機の教訓を無駄にしたと言われることがある。しかし新型コロナウイルスパンデミックについて同じことを言う人はいないだろう。今回の事態は甚大な影響を及ぼし、ほんの数ヶ月前には想像もつかなかった、あるいはまったく異色の政策が実行されている。その結果、何十年かに一度の大変化が今、経済の世界でも起こりつつある。1970年代にケインズ主義がミルトン・フリードマンの緊縮的なマネタリズムに取って代わられたように、また1990年代に中央銀行が独立性を与えられたように、今回のパンデミックは新たな時代の始まりを告げるものである。その最優先課題は、新たな機会を開拓する一方で、経済と金融市場への超大型の国家介入に起因する巨大なリスクを抑制することだ。

この新しい時代には4つの特徴がある。第1は驚異的な額に上る政府借入であり、しかもそれがとどまるところを知らないように見えることである。IMFによると、富裕国は今年、経済を下支えするため4.2兆ドルの歳出・減税を行い、その資金調達のため各国のGDP合計額の17%にあたる額を借り入れると予測している。しかし、それで終わりではない。米国議会では別の歳出パッケージが議論されている。欧州連合はつい最近、共同債の発行による新たな景気刺激策に合意し、政治における大きな一線を越えた。

第2の特徴は紙幣発行である。米国、英国、ユーロ圏、日本の中央銀行は、2020年にすでに約3.7兆ドル相当の紙幣を発行している。その多くは政府借入に充てられており、中央銀行は暗黙のうちに景気刺激策に資金を供給していることになる。その結果、公的債務の発行が急増しても、長期金利は低水準を維持している。

第3の特徴は、国家が資本配分の主役としての役割を増大させていることだ。信用収縮を回避するため、連邦準備制度理事会FRB)は財務省とともに金融市場に介入し、AT&T、アップル、コカコーラなどの債券を買い上げ、また債券ディーラーから非営利の病院に至るまであらゆる組織に直接の貸し出しを行っている。今や、FRB財務省は米国全体の企業債券の11%を保有しており、他の富裕国の政府や中央銀行もこれに追随している。

最後の特徴は低インフレであり、これが最も重要なポイントである。物価上昇圧力がないことは、今すぐ中央銀行のバランスシート拡大を抑制したり、短期金利をゼロ付近の水準から引き上げる必要がないことを意味する。したがって低インフレこそが、公的債務を懸念せずに済む基本的な理由であり、金融緩和において公的サービスのコストはほとんどなく、マネーは無尽蔵、つまりフリーマネーのように見える。

パンデミックが収束し、失業率が下がれば、国家の役割はすんなり正常に戻ると甘く見てはいけない。もちろん、政府や中央銀行は歳出や救済措置を減らすだろう。しかし、経済の新時代とは長期的な傾向の集大成である。パンデミックの前から、雇用市場の活気にもかかわらずインフレ率と金利は低い水準にあった。今も債券市場は長期的なインフレを懸念する気配を見せていない。もしそれが正しければ、赤字と紙幣発行がこの先何十年も政策決定の常套手段となる可能性がある。一方で、金融市場における中央銀行の介入増大は、仲介者としての銀行の停滞と、革新的でハイリスクを求めるシャドーバンク(金融仲介業者)や資本市場の台頭を反映している。かつて商業銀行が市場を支配していた時代には、中央銀行は商業銀行にとって最後の貸し手として機能していた。ところが今や中央銀行は、巨大な「最後のマーケットメーカー」として、ウォール街などへの介入を余儀なくされている。

経済全体に対してこれまでずっと広く深く関与してきた国にとっては、いくつかの機会が生まれている。低金利を活用して国が借入を行い、研究所から電力網に至るまでインフラ整備を行えば、成長を後押しし、パンデミックや気候変動などの脅威に対応できる。社会が高齢化するにつれ、医療や年金への支出増加は避けられないが、その結果として生じる赤字が次の必要な経済対策につながっていく。

しかし、この新しい時代には重大なリスクも存在する。インフレ率が想定外に急上昇した場合、中央銀行政策金利を引き上げなければならず、債券購入に関する多額の利息支払いが発生し、負債の構造全体が揺らぐことになる。また、インフレ率が低水準にとどまったとしても、この新しい枠組みはロビイストや組合、利害関係者の動向の影響を受けやすい。

マネタリズムの重要な側面の一つは、拡大するマクロ経済の管理が、政治家による際限のないえこひいきにつながるということであった。すでに政治家たちは、どの企業が税制優遇措置を受け、どの労働者が仕事再開までの期間に国から給料をもらうのかを算段している。民間企業への融資の一部はこれからおそらく焦げ付き、政府はどの企業を見放すかを選択することになる。しかしマネーは無尽蔵にあるのだから、あらゆる企業を救済し、時代遅れの雇用を守り、投資家を救ってもいいのではないか?

しかし、そうした行為は短期的には経済を刺激するが、結局は市場をゆがませ、モラルハザードを引き起こし、低成長の原因となる。政治家の近視眼を恐れて、多くの国は独立した中央銀行に権限を委譲したのだ。そして中央銀行は、金利という単純かつ唯一のツールを駆使して景気循環のコントロールを行ってきた。しかし今日、限りなくゼロに近い金利は無力さを露呈し、独立しているはずの各国中央銀行のトップらは、むしろ政府の債務管理部門で働く使用人になりつつある。

経済は新しい時代を迎えるたびに新しい課題に直面している。1930年代以降の課題は恐慌を防ぐことであり、1970年代と1980年代初頭はスタグフレーションを終わらせることであった。今日、政策立案者に課せられた課題は、景気循環を管理し、政治に経済を乗っ取られることなく金融危機に対処するための枠組みを作ることである。今週号の当誌ブリーフィングセクションで述べているように、これには財政的な権力をテクノクラートに委ねることや、中央銀行による大幅なマイナス金利の実施を可能とする金融システムの改革、また消費者の間で起こっている従来型の銀行からフィンテックやデジタル決済への革命的な移行を活用することが含まれるかもしれない。これは大きなリスクを伴う挑戦である。もし失敗すれば、フリーマネーの時代はいずれ大きな代償を支払うことになるだろう。

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