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Weekly edition:表紙づくりのウラ話(2020年7月25日号)

The Economistの定期購読者限定で、毎週初めに、最新号の表紙デザインをどう決めたか?という編集部ウラ話がメールで送られてきます。このストーリーを読むと、その週のThe Economistの主張が見事に表紙デザインに反映されていることがわかります。毎週、読みごたえのある大量の記事を発信するだけでなく、主張を端的に反映した表紙イラストも見どころのThe Economist☆今週号の表紙も、へえっと驚く仕掛けが満載です。

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今週はこの表紙デザインの編集部ウラ話!

今週の表紙は、何十年かに一度の経済の新時代の幕開けについてです。新型コロナウィルスの世界的大流行の結果、各国政府は未曾有の大規模なレベルで借り入れ、通貨発行、資本市場への介入を実施しています。低インフレが持続する中、こうした政策は長く続く可能性があります。経済は新しい時代を迎えるたびに新しい課題に直面してきました。1930年代以降しばらくは恐慌を防ぐことであり、1970年代と1980年代初頭はスタグフレーションを終わらせることでした。今日の政策立案者に課せられた課題は、景気循環を管理し、政治に経済を乗っ取られることなく金融危機に対処するための枠組みを作ることです。


今回の表紙デザインの難題は、この非常にテクニカルなテーマをいかに正しい方向で分かりやすく伝えるかということでした。根底にある経済上の問題は恒久的な低金利です。今のところ金利がゼロを大きく下回ることは不可能です。もしそうなれば、人々は銀行預金を引き出してタンス預金にするでしょう。ですが「マクロ経済理論」や「ゼロ金利下限(zero-lower bound;ZLB)」といった用語には当誌すら不快感を覚えます。

 

こうした状況では、あまり固く考えないほうがうまくいきます。それを反映したのがこれらのスケッチです。

 

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左のスケッチは、コロナウイルス型の水しぶきを残して空に突っ込むダイバーを描いています。ダイバーの頭上で穏やかに泳ぐ魚はなかなかウィットに富んでいます。右のほうは、バズライトイヤー風の人物が下を指さし、まさにマイナスの領域へ踏み込もうとしています。

 

どちらも面白い構図でしたが、その意味を理解するには記事を読む必要があります。マイナス金利がなぜ重大な意味を持つのか、いやそれ以前に、そもそもマイナス金利に関する当誌の見解を知っている読者はとても少ないでしょう。

 

そこで、もっと広く読者に訴えるアイデアを練りました。

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 狙いは、過去との決別を表現することでした。それに合わせて「フリーマネーの新世界へ踏み込む(A brave new world of free money)」というタイトルを入れました。さっきのバズライトイヤーがここでも登場し、大気圏に舞い上がる紙幣を拾っています。ベルトコンベアはドル紙幣の海へ次々と紙幣を注いでいます。

 

編集部はこの2つのアイデアを展開することにしました。まずはタイトルの調整。字数が多すぎたので「新世界へ踏み込む」は削除しました。「フリーマネー」だけでもインパクトは十分でした。いえ十分どころかインパクトがありすぎて、ローンを組んだ人が返済不要だと誤解しかねません。そこでサブタイトルを加えてインパクトを調整しました。

 

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 このスケッチではバズライトイヤーは消え、米国とヨーロッパは紙幣デザインで表現されています。世界を描いているので、世界という言葉を入れる必要もありません。いったんはこのデザインでいけると思ったのですが、面白味に欠ける点がネックでした。イルカと南国の島が醸し出す陽気さが、雑誌の表紙というよりも、空港で見かける広告のように思えました。

 

そこでベルトコンベアのアイデアに戻りました。こんなビジュアルソースも見つけました。

 

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私たちは、世界をドル漬けにするマシンのイメージをアーティストに伝え、ドラフトを作成してもらいました。

 

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 このドラフトがいい線を行っていました。ヒース・ロビンソン風のドル印刷工場、モンティ・パイソン的な質感、オレンジ色の空を背景に浮き上がるタイトルの文字。そして「フリーマネー」が思い切った表現であることを告げるサブタイトルへとつながる構図になっていました。

 

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 このドラフトは、ベルトコンベアの部分をトランペットに置き換えたものです。こちらのほうが気に入り、さらに最終的にはルーブル・ゴールドバーグの機械仕掛けをもじってトランペットをフレンチホルンに置き換えました。ドル工場と楽器の組み合わせはアイデア全体をさらに荒唐無稽に近づけているかもしれません。でも、そこには重要なロジックが一つ隠されています:ドル工場も楽器もnotes(紙幣/音)を出しますからね。

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いかがでしたか?次回もぜひお楽しみに。

 

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