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トランプ大統領が新型コロナウイルスに感染(2020年10月2日)

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Coronavirus and politics
How will Donald Trump’s covid-19 infection affect the election?

 

トランプ大統領の感染が大統領選に与える影響やいかに?

 

<全文和訳>

 

ドナルド・トランプ大統領夫妻が新型コロナウイルス検査で陽性となった。大統領選挙まであと4週間である。トランプ夫妻と家族は心配しているに違いない。そしてこのことは大統領選挙活動にも重要な影響を及ぼす。政治ジャーナリストたちは数ヶ月も前から10月にサプライズがあると憶測していたが、その一つが現実になった。

 

想定されるシナリオの一つは、特に大きな問題は起こらないというものだ。陽性反応が出ても症状が出なかったり、軽症で済む場合がある。トランプ大統領は10日間の隔離生活に入り、メリーランド州ベセスダのウォルター・リード軍事病院から必要なケアを受ける。そして10月の半ばには姿を現し「ほら、言った通りだろう。大したことはなかった」と発言する、という筋書きだ。

 

ただしこのパターンでも、トランプ大統領にとって政治的にはマイナスである。仮に同情票を集めたとしても、その影響は小さいとみられる。The Economist誌の世論調査の平均値では、トランプ氏はジョー・バイデン氏に7ポイント差をつけられているが、これを考慮するとトランプ氏を選ぶのは10人に1人だ。トランプ大統領は、議論の焦点を新型コロナウイルス関連つまり政権の対応のまずさとそれによる経済への影響から他へ移そうとしているが、自身の感染により、今後10日間はその取り組みがストップする。隔離が終了する頃には、バイデン候補との差を埋めるための時間はあまり残されていない。

 

隔離期間中、米国民は、トランプ氏が常にウイルスの脅威を軽視し、そのうち消滅するとすら発言していたことを思い出すだろう。9月29日の夜に行われた第1回大統領選挙討論会で、トランプ氏は必要な時だけマスクを着用していると述べ、マスクの常時着用を主張するバイデン氏をあざ笑った。「私はバイデン氏のようなマスク着用はしない。彼はいつでもマスクをしている。私から数十メートル離れたところで話すとしてもマスクをしているだろうし、今日は私が今まで見た中で最大のマスクをつけている」と言い放った。そして討論が進むにつれ、パンデミックの終わりが見えてきたと主張した。

 

ホワイトハウスは長い間、トランプ大統領とその側近は常に検査を受けているため、大統領はマスクを着用する必要がないと言い続けてきた。それは正しいかもしれないが、このようなスタンスを取ることで、米国疾病対策センター(CDC)のマスク着用の呼びかけを弱体化してきた。CDC所長は一貫して、マスクを着用することでウイルスの拡散を遅らせることができ、それが他者を守ることになると主張している。大統領の曖昧な態度と新型コロナウイルス感染症による20万人超の死者との関連性は誰もが多少なりとも感じている。

 

もちろん、別のシナリオもある。4月に感染し重症化した英国のボリス・ジョンソン首相のような展開だ。新型コロナウイルス感染症で入院した人に対する治療はこの数ヶ月の間に改善しており、それが米国で同感染症による死亡率が低下している理由の一つとされている(もう一つの理由は検査数の増加である)。ただし、トランプ大統領は3つの危険因子、つまり男性であること、高齢(74歳)であること、BMIが30以上であること(米国衛生研究所によると大統領のBMIは4月以降30.5となっている)を満たしている。元CDC所長であるトム・フリーデン氏は自身のツイッターで「74 歳の場合の死亡率は約3%、重症化リスクは10-15%。男性、肥満者はより高リスクである」と指摘している。70代の人は別の疾患を持つ人も多く、それが高リスクにつながっている。もちろん、大統領は世界最高水準の医療を受けられるであろうが。

 

トランプ大統領に万一の事態が発生した場合、ジョン・F・ケネディ暗殺後に批准された憲法修正25条の下で、マイク・ペンス副大統領が職務を遂行することになる。ペンス氏の報道官はツイッター上で、副大統領夫妻が共に陰性であることを表明している。

 

しかし、不確実性はそれだけではない。さらに驚くような第3のシナリオがあり、それは現在予想されている今回の選挙結果をひっくり返す可能性があるのだ。このシナリオも今から11月3日までの間に考えられる事態の一つとして想定しておかなければならない。それは、トランプ氏が回復する一方で、バイデン氏が選挙直前に感染・発症するというものだ。

 

それはありえないことかもしれない。90分間にわたりTV放映され非難の応酬に終わった第1回討論会の場で、バイデン氏は大統領から2メートル離れたところにおり、検査も陰性だった。しかし、また新たな一週間が始まり(週明け早々、ニューヨーク・タイムズ紙が大統領の税金問題を暴露した)、この米国大統領選挙戦で次に何が起こるのか、もはや誰にも予想はできない。

 

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