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英エコノミスト(The Economist)の最新記事を日本語で紹介しつつ、日々の気づきを徒然につづります

コロナ禍の終わりが見えてきた(2021年7月3日)

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2021年7月3日号のトップ記事の私的和訳をお届けします。

 

After the disease
The long goodbye to covid-19
The pandemic is still far from over, but glimpses of its legacy are emerging

 

1年半にわたり、新型コロナウイルスは次から次へと国々を襲い続けている。やっと打ち勝ったと思うと、感染力のさらに強い新種のウイルスが登場する。しかし、ワクチンの接種回数が30億回を超えた今、コロナ後の生活が徐々に見え始めた。すでに2つのことがはっきりしている。パンデミックの最後の段階は長く苦しいものになることと、コロナ後の世界が一変することだ。

 

今週、エコノミスト誌は、この2つの現実を反映した「正常性指数」を発表した。この指数は、地球上の人口の76%を占める50カ国について、パンデミック前の平均値を100とし、フライト、交通、小売などを追跡したものである。現在のスコアは66で、2020年4月の約2倍である。

 

しかし、新型コロナウイルスはまだ多くの国で猛威を振るっている。この指数が最も低いマレーシアでは、1月と比較して6倍の死者数を記録しており、スコアは27にとどまる。その主な理由はワクチン接種が進んでいないことである。

 

死者が急増しているサハラ以南のアフリカでは、1回目の接種を終えた12歳以上の人口はわずか2.4%に過ぎない。ワクチン接種が進んでいる米国でも、ミシシッピ州アラバマ州では接種が完了している住民は3割程度である。世界の今年のワクチン製造数は約110億回分に達する予定であるが、これらのワクチンがすべて実際に接種されるまでには時間がかかり、また豊かな国がワクチンの囲い込みに走ればさらに時間を要するだろう。

 

ワクチン接種の遅れは新たな変異株の登場でさらに悪化している。インドで最初に発見されたデルタ株は、武漢で発生したウイルスの2〜3倍の感染力を持つ。急速な感染拡大により、接種率が3割に達している国でも、病床数や医療スタッフ(場合によっては酸素も)が急激にひっ迫する可能性がある。そして、変異株への感染はすでにワクチンを接種済の人の間でも拡大している。ほとんどの重い病気や死亡を防ぐというワクチンの効果を損なうような変異株はまだ発生していないが、今後はわからない。

 

いずれにせよ、ウイルス自体は生き延びたとしても、パンデミックはいずれ終わるという事実に変わりはない。すでにワクチン接種を完了した人や新たな治療が受けられる人にとっては、新型コロナウイルス感染症はすでに死に至る病ではなくなりつつある。デルタ株が主流となっている英国では現在、感染者の致死率は季節性インフルエンザと同様の0.1%程度であり、危険だが管理可能な病気である。変異株に応じてワクチンの改良が必要な場合も、それに長い時間はかからないだろう。

 

しかし、豊かな国でワクチン接種や治療が行き渡るようになる一方で、貧しい国でそれらの不足により死者が増えれば、怒りは増幅し、豊かな国との間に摩擦が生じる。そして渡航の禁止は二つの世界を隔て続けることになる。

 

航空機での往来はいつか再開するが、その他の行動の変化は続き、中には深刻な影響を与えるものもあるだろう。米国の場合、3月に景気指数がパンデミック前の水準を超えたが、エコノミストの正常性指数は73にとどまる。その理由の一つは、大都市から雑踏が消え、在宅勤務の人が増えたことだ。

 

今のところ、COVID-19による社会的変化は過去のパンデミックのパターンを踏襲しているように見える。イエール大学のニコラス・クリスタキス氏は3つの変化を指摘している。集団的な脅威が国家権力の増大を促し、日常生活の大きな変化が意味の探求をもたらし、死を身近に意識した人々はそれを乗り越えた後に大胆になる、というものだ。この3つはそれぞれ、社会に独特の影響をおよぼすだろう。

 

豊かな国の人々がロックダウンで巣ごもりを強いられたとき、国家も自らのバリケードを張り巡らせた。パンデミックを通じて、政府は主たる情報源であり、ルールの設定者であり、資金の提供者であり、現在はワクチンの提供者である。豊かな国の政府は、失われた生産高1ドルにつき90セントをカバーした。政治が国民の自由を制限すると、意外にも国民のほとんどはそれを喜んで受け入れた。

 

ロックダウンが「実施に値するものだった」かどうかについての学術的な議論が活発に行われている。しかし、パンデミックがもたらした「大きな政府」はすでに姿を現している。バイデン政権の支出計画を見れば、不平等、経済成長の鈍化、サプライチェーンの安全性など、あらゆる問題について、より大きな政府のより積極的な介入が求められているように見える。

 

また、新たな意味の探求を示唆する証拠もある。右派、左派を問わず、アイデンティティ・ポリティクスへの移行が進んでいるが、それ以上の深い変化も起こっている。Pew社による世論調査では、イタリアとオランダで約5人に1人がパンデミックによって自国の宗教心が高まったと回答し、スペインとカナダで約5人に2人が家族の絆が強くなったと回答している。

 

余暇の過ごし方にも影響が見られる。人々の自由時間は15%増加した。英国では、若い女性の読書時間が50%増加した。出版社には大量の原稿が持ち込まれているという。このような変化は一時的なものもあり、メディア企業はこうした「ブームの反動」を懸念しているが、定着する変化もあるだろう。

 

例えば、人々はパンデミック以前のような仕事に忙殺される生活から脱却するかもしれない。ひっ迫した労働市場はその追い風になる可能性がある。英国では、2020年に医学部への入学希望者が21%増加した。米国では、新規起業数が2004年の記録開始以降で最高となっている。複数の調査結果によると、在宅で仕事ができるアメリカ人の3人に1人は週5日の在宅勤務を希望している。一方で、オフィス勤務への復帰を命令したり奨励する会社もある。

 

リスクへの欲求が回復するかどうかはまだわからない。原則的には、致死的な病気から生還した人は自らを幸運な人間だと楽観視する。一世紀前のスペイン風邪の収束後の数年間は、性産業、芸術、スピードへの熱狂など様々な分野で興奮への渇望があらわになった。今回のパンデミックからは、宇宙旅行遺伝子工学人工知能、拡張現実などで新たなフロンティアが生まれる可能性がある。

 

新型コロナウイルスの登場前から、デジタル革命、気候変動、中国の台頭などにより、第二次世界大戦後の欧米主導の秩序は終焉を迎えつつあった。今回のパンデミックはその変革のスピードを早めることになるだろう。

***

 

Normalcy index(正常性指数)をはじき出すあたり、さすが英エコノミスト誌ですね。以下のリンクに詳しい説明がありますよ。ちなみに米国の73に対して、日本のスコアは60をちょっと超えたくらいでした:

Our normalcy index shows life is halfway back to pre-covid norms | The Economist

 

ではまた。

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エグゼクティブ・オフィス廃止の功罪(2021年5月1日)

f:id:Simple333:20210503070827j:plain2021年5月1日号のビジネスセクションから私的要約をお届けします。

英語原文を聞きたい方は、下の音声ファイルをクリックしてください!

(めっちゃイギリス英語ですよ~笑)

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Bartleby
Abolishing executive offices
The costs of office-less executives outweigh the benefits

 

www.youtube.com

 

これまで企業のオフィスといえば、上層階に経営陣のフロアがあり、CEOの角部屋オフィスの大きな窓からは最高の景色が広がります。上階へ呼ばれた部下は一瞬でも緊張を覚えます。

 

最近の経営者の中にはこのスタイルを嫌う人もいます。例えば、Netflixの創業者リード・ヘイスティングスは大部屋で仕事をしています。最近ではもっと伝統的な企業も新たなスタイルを取り入れ始めました。大手銀行HSBCのロンドン拠点であるカナリーワーフタワーの42階はかつてエグゼクティブフロアでしたが、このフロアは今後、会議室フロアに変更され、経営幹部も一般社員同様「ホットデスク(自由席)」で仕事をすることになります。

 

このような転換には一理あります。一般社員が大部屋に詰め込まれる一方で幹部社員がパノラマビューの快適なオフィスにしがみついていては、従業員のやる気の低下につながります。それにリーダーが近くに座っていれば、プロジェクトの進捗状況やスタッフの気持ちをより正確に把握できます。理論的には、リーダーがすぐそばにいれば、スタッフは問題を相談しやすくなります。

 

しかし、常に上司がいる場では、かえって士気が下がることも考えられます。職場の楽しみのひとつは、同僚とのちょっとした会話です。その中には、上司の悪口もあるでしょう。上司がいると、話の内容やトーンが制限されます。常に真面目な顔をしていないと、自分の仕事の質が疑われるかもしれませんから。

 

それに、エグゼクティブが本当に毎朝、座る場所を探すのかも気になるところです。例えば初日にCFOが自分の机を選ぶと、翌日から控えめな部下たちはその机には近づかないでしょう。逆に、特定の上司と密に仕事をしたい人は、常に上司の近くのデスクを選ぶでしょう。つまり自由席の「場所取り」問題が発生する可能性があります。

 

もちろん、エグゼクティブが長い間、大部屋にいないこともあります。将来の事業計画や人事のミーティングなど機密性の高い会議は非公開で行われなければなりません。つまり、HSBCがエグゼクティブフロアを改造した会議室の大半は、結局、管理職に独占されてしまう可能性があるのです。

 

大部屋に上司がいると、別の問題も引き起こします。経験がある人なら誰しもわかるとおり、大部屋での仕事は他人の話し声が気になって集中できないことがあります。その場合、ヘッドフォンをして雑音をシャットアウトしたりします(これは「邪魔するな」というアピールでもあります)。しかし、管理職がこれをやると、部下とのコミュニケーションを拒否しているように見える危険性があります。

 

オープン型のオフィスに関する複数の研究が、このタイプのオフィスは期待される協業効果を生まないことを明らかにしています。例えば大部屋デザインに変更した企業では、対面でのコミュニケーションが70%減少したという結果が出ています。多くの人は、常時監視されていることを嫌います。物理的な壁がないと、人々は見えない壁を作り、表情や素っ気ない対応で自分の世界に入ろうとします。

 

それに多くの場合、必要なのは自分のチームとのコミュニケーションです。ですから、ホットデスクを採用して異なるチーム間のコラボレーションを生み出そうとしても、なかなかうまくいきません。すぐ隣に座る別のチームの人と話をせず、別のところにいる自分のチームメンバーにメールでコミュニケーションをするような状況が生まれるだけでしょう。

 

現実的に、企業がオープン型のオフィスを採用する主なメリットは、固定席の場合よりも多くの従業員をカウントできることによるコスト削減です。一部の企業は在宅勤務も積極的に認めています。HSBCは最近、主にコールセンターで働く1,200人以上のスタッフに対し、永続的に在宅勤務を認めると発表しました。実際、HSBCのエグゼクティブフロアの撤廃は、本社コストの40%削減を目的する計画の一環です。同行トップのノエル・クインがフィナンシャル・タイムズ紙に語ったように、経営幹部は出張が多く、オフィスでの仕事は全体の半分程度だったのです。結局、物事の展開を把握するには、お金の動きを追うのが一番手っ取り早いようです。

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皆さんの会社のオフィス事情はどうでしょう?上記のエコノミスト誌の指摘、あるあるじゃないでしょうか?!

コロナ禍がもたらした良い面の一つが、働き方の改革がいやおうなしに進んでいることです。The Economistもビジネスセクションで、働き方の問題を多く取り上げています。このブログでも以下のような関連記事がありますので、お時間があればのぞいてみてくださいね。(サイドバーのカテゴリー「働き方」に一覧があります☆)

simple333.hatenablog.com

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東南アジア、米中対立の重要な争点に(2021年2月27日)

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今週のトップ記事の全文和訳をお届けします。

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The battle for China’s backyard
The rivalry between America and China will hinge on South-East Asia
China’s advantages in the tussle are not as big as they seem

 

東南アジア、米中対立の重要な争点に

中国の影響力はまだ見かけほど浸透していない

 

アメリカとソ連は45年に及ぶ確執の間、世界中で代理戦争を繰り広げた。冷戦が最も激しかったのはヨーロッパで、ソビエト連邦は連邦の崩壊を、アメリカは同盟国の弱腰を常に心配していた。中国とアメリカの戦いは、幸いにもそれとは違う。双方の武装勢力が前線で互いに睨み合っているわけではない(ただし、台湾と北朝鮮では、それぞれ何十年にもわたり同一民族間での緊張した対立関係が続いている)。それでも、二つの大国間のせめぎ合いの中心となっている地域がある。それが東南アジアだ。この地域には今のところ明らかな前線と呼べるものはないが、それゆえに対立はより複雑化している。

 

youtu.be

 

東南アジアの国々はすでにアメリカと中国を対極として見ており、国内の意見対立を招いている。例えば、ミャンマーの最近の軍事クーデターに抗議する人々は、将軍を支持している中国を批判し、アメリカの介入を懇願するプラカードを掲げている。各国の政府はどちらか一方を選ぶプレッシャーを感じている。2016年、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は「アメリカからの離脱」を声高に宣言し、代わりに中国への忠誠を誓った。南シナ海のほぼすべてが領海内にあると主張する中国と、それを認めないアメリカは、中国が主導権を握ろうとする地域の主要な枠組みである東南アジア諸国連合ASEAN)をめぐって激しい論争を巻き起こしている。

 

この綱引きは、二つの理由でさらに激化するだろう。第一に、東南アジアは中国にとって戦略的に極めて重要である。東南アジアは中国の玄関口に位置し、中国が石油やその他の原材料を輸入し完成品の輸出を行う貿易ルートを形成する。中国の東側がアメリカの強力な同盟国である日本、韓国、台湾に囲まれているのに対し、東南アジアはそれほど敵対しておらず、商業的にも軍事的にもインド洋と太平洋の両方へのアクセスを提供する。東南アジア屈指の強国になることによってのみ、中国は閉じ込めの恐怖から解放されるのである。

 

しかし、東南アジアは、単なる地理的な中継地ではない。東南アジアをめぐる競争が激化する第二の理由は、東南アジア自体が世界の中で重要性を増しているからである。東南アジアの人口は7億人であり、欧州連合ラテンアメリカ、中東よりも多い。経済規模は、単一の国として見た場合、物価調整後で中国、アメリカ、インドに次ぐ世界第4位である。そして、この経済規模は急速に成長している。インドネシアとマレーシアの成長率は10年間で5~6%、フィリピンとベトナムは同6~7%である。ミャンマーカンボジアなどのより貧しい国々の経済成長率はさらに高い。中国に対するヘッジを行う投資家にとって、東南アジアは製造業のハブとして一つの選択肢となっている。また、東南アジアの消費者は今や、この成長市場を構成するのに十分な購買力を持つ。商業的にも、地政学的にも、東南アジアはまさに「金の卵」なのである。

 

この二大国間の競争では、中国が有利と見られている。中国はこの地域最大の貿易相手国であり、アメリカよりも多くの投資を行っている。少なくとも東南アジアの1カ国、カンボジアは事実上、すでに中国の従属国である。そして、超大国同士の多くの争いの中で、公然とアメリカに味方して中国の怒りを買おうなどとする国は一つもない。

しかし、東南アジアと中国との関係は一見近いように見えるが、問題もはらんでいる。中国の投資額は確かに巨額であるが、その反動もある。中国企業はしばしば汚職や環境破壊で非難の的となる。また多くの中国企業は自ら連れてきた中国人労働者を雇用し、現地の雇用拡大に最大限貢献していない。そして、中国には、気に入らない国を罰するのに貿易と投資の制限を行うという憂慮すべき慣習がある。

 

中国はまた、軍事力の誇示により近隣諸国を不安に陥れている。南シナ海での攻勢や、近海で漁業や石油掘削を行う東南アジアの船舶への嫌がらせは、ベトナムからインドネシアに至るこの地域のほぼすべての国との摩擦を生じさせている。中国はまた、ミャンマーの民主政府に対峙する反政府勢力との関係を維持しており、過去にはこの地域全体でゲリラの支援を行ってきた。

 

このような中国の強硬姿勢は、悲しいかな、伝統的な感情に加えてさらに、東南アジアの多くの国々で中国への反感を高めている。ベトナムでは反中国の暴動が頻発している。世界で最もイスラム教人口の多い国であるインドネシアでは、中国人の不法移民から中国内の少数派イスラム教徒に対する扱いに至るまで、中国に対してあらゆることに抗議の声が上がっている。共産党独裁政権下にあり、大衆の不満などほとんど聞かれない小国ラオスでさえも、中国の支配に対する不満は日常的に囁かれている。東南アジアの指導者たちは、経済的な影響を恐れて公然と中国を批判することはないかもしれないが、一方では自国民の怒りを買うのを恐れ、中国にあまりに近づきすぎることも警戒している。

 

このように、東南アジアにおける中国の覇権は盤石とは程遠い。東南アジアの政府は、富める国である中国との貿易や投資の関係を放棄することは望んでいない。しかし、これらの国々の望みはアメリカの望みと一致している。すなわち平和と安定、そしてルールに基く秩序であり、これらは中国からは得られないものだ。他の中堅国と同様に、東南アジアの主要国は、自らの賭けをヘッジし、時の巨人からどのような恩恵を受けられるかを見極めたいと考えている。

 

東南アジアが中国に操られないようにするためには、アメリカは、東南アジアに対して選択肢をオープンにしておくことを奨励し、同時に中国の影響力に対抗する方策を構築すべきである。その一つは、地域統合の強化である。現状では、東南アジア諸国間の貿易や投資は、中国との取引を上回る。もう一つは、一つのASEANとして、日本や韓国などのアジア諸国との関係を強化することである。そして何よりもアメリカは、東南アジア諸国に対して、アメリカか中国かの二者択一を迫ろうとしてはならない。なぜならそれこそが、間違いなく東南アジアの反発を招く唯一の愚策だからだ。

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今週号The Economistの表紙にもなった、この記事のイラストにもご注目!

中国の裏庭として描かれた東南アジア。中国を象徴する色、赤のペンキで塗り尽くされているようで、まだまだ作業は道半ばであることが表現されています。

米中という超大国のはざまで揺れ動く、成長市場の東南アジアの将来に注目ですね!

 

 

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ウォール街で新たな金融革命、始まる(2021年2月6日)

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Global finance
The real revolution on Wall Street
High tech meets high finance

 

ウォール街の真の革命
ハイテクがハイファイナンス(巨大金融)に出会うとき

 

ウォール街での騒動が想定外の展開を見せており、Netflixがそれらを題材にしたドラマを計画していると言われている。ならばその筋書きはどうあるべきか?一つは、政治の世界と同様に、反体制派の運動が巨大金融の世界に混乱を引き起こすというストーリーだ。もう一つは、株価の大幅な変動やオンライントレーダーの台頭、証券会社の資金ひっ迫などが、高値圏の市場が暴落の危機に瀕していることを示唆するというものだ。しかしどちらも、実際に起こっていることを覆い隠している。情報技術が、取引を自由にし、情報の流れを変え、新たなビジネスモデルを媒介し、市場の仕組みを変えている。そして、ここ数週間の騒動にもかかわらず、このことは長期的には大きな利益をもたらすことを約束している。

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もちろん、脚本家はその筋書きには乗らないだろう。彼らが注目するのは、投稿サイトReddit上の投資フォーラムであるWallStreetBetsの800万人のフォロワーたちであり、これらの人々は新たな金融冒険主義と言えるものを発明した。これを群集(swarm)トレードと呼ぶことにする。群衆トレーダーたちは結集して1月下旬に低迷する企業の株価を競り上げた。これにより、株価の下落を読んでいたヘッジファンドが巨額の損失を出し、ボラティリティが上昇した場合に担保の提供が義務付けられているオンライン・ブローカーの資金を圧迫した。1月28日以降、最も知られるネット証券会社ロビンフッド(Robinhood)は、自身の再建のために34億ドルを調達した。

 

群衆は次へ進んだようである。今週、一部の急騰株の価格は下落し、銀が急騰した。一方、多くの市場では、通常のルールが中断されたままだ。昨年、300社近くのSPAC(特別買収目的会社)が上場し、IPO(新規株式公開)の手間をかけることなく800億ドル以上の資金を調達している。テスラは米国で5番目に価値の高い企業となった。非主流から主流に躍り出たビットコイン企業価値は6,800億ドルに達している。株式の取引高は少なくとも10年間で最高となり、一部のデリバティブの取引高は爆発的に増加している。

 

その理由の一つは、政府の景気対策によってリスクの高い債務が増加していることにある。銀行には資金が有り余っている。JPモルガン・チェースの資金はパンデミックで5,800億ドルも増え、今や預金者は見向きもされない。そんな中、ロックダウン中に北京語を学んだりトルストイを読んだりして過ごす代わりに、景気対策で受け取った小切手を元手にデイトレードに励む人がいる。マニアのブームは警戒すべきものであるが、今日の価格を支える理由になっている。金利がこれほどまで低いと、他の資産が相対的に魅力を増す。5年物国債の実質利回りと比較すると、株価は2000年の暴落前よりも安くなっている。

 

しかし、このことは、金融の根本的な変化を反映している。ここ数十年の間に、株式の取引コストはほぼゼロにまで低下した。最初に恩恵を受けたのは定量的手法を用いるクオンティテーティブファンドやBlackRockなどの大手資産運用会社であった。しかし今では個人投資家もその恩恵にあずかるようになり、1月には全取引の4分の1を個人投資家が占めた。同時に、市場の生命線である情報の流れが分散化しつつある。以前は、企業や経済に関するニュースはインサイダー取引法や市場操作法によって管理されている報告書や会議体から発信されていた。しかし今では、デジタル機器とひまな時間がある人ならすぐに、ウェブサイトのスクレイピング、業界センサーの追跡、ソーシャルメディア上のチャットのモニタリングなどから得られる膨大なデータを入手できる。そして、新しいビジネスモデルがウォール街を駆け抜けている。カリフォルニア発の技術プラットフォームであるロビンフッドは、シカゴのブローカーであるCitadelを通じて取引を実行する。ロビンフッドフェイスブック同様、ユーザーの手数料は無料である。その代わりにロビンフッドはユーザーの取引情報をブローカーに販売し収益を上げている。

 

市場の騒乱は決して一過性ではなく、今後はますます激しくなるだろう。コンピュータは流動性の低い資産のバスケットを集め、アルゴリズムを使って類似する別の資産の価格を決定し、簡単に取引できる資産の世界を拡大することができる。流動性のあるETFを通じて取引される債券の割合が急増している背景にはJane Streetのような新種のマーケットメーカーの存在がある。Zillow のような競合他社は住宅販売を迅速かつ安価にしようとしており、商業用不動産とプライベートエクイティ株式にも近く同様の仕組みが誕生する可能性がある。

 

理論上、こうしたデジタル化には大きな期待が寄せられている。より多くの人々が市場に安価にアクセスし、より広範な資産の所有に直接関与し、その運営方法に対し投票権を持つようになるだろう。また、今日の非流動性資産の資本コストは低下する。そして投資家は希望通りのリスクテイクを選択することが容易になるだろう。

 

しかし、金融の進歩はしばしば大きな混乱を伴う。2007-09年のストラクチャード・クレジット・ブームがそうであったように、イノベーションがまずは危機を引き起こす可能性がある。ソーシャルメディア誤報を広めてしまうことも懸念される。ここ数週間の価格上昇を裏付けるものを見出すのは難しい。個人投資家のデータを大量に蓄積している強力な企業がそれらを悪用するのを懸念する向きもある。ロビンフッドを巡る騒動で、すでに政治家は右派・左派ともに、個人投資家の損失や資産価格の設定の誤り、また投資家が資産から資産へと殺到し市場インフラが圧倒されることによる金融の安定性への脅威について問題視している。驚くべきことに、技術的に洗練された個人投資家が支配する唯一の大規模な株式市場は中国である。中国政府は検閲を行い、価格や行動を様々にコントロールすることで、問題の発生に蓋をしようとしている。

 

ありがたいことに、米国ではそのようなコントロールが行われることはないが、規制当局の統制手法については更新する必要がある。素人でもプロでも、たとえ政治家からの同情を集めたとしても、損失を被ることに変わりはないことを明確にしなければならない。オンラインの政治の世界では、直接的なコストがかからないことから非合理的性がまかり通っている。対照的に、市場では損失は規律として機能する。今日最大のバブル資産が崩壊した場合、そのツケはおそらく2兆ドルに上るだろう。それは痛手には違いないが、44兆円相当の株式市場では壊滅的な打撃にはならない。

 

インサイダー取引や市場操作のルールも、新しい情報の流れに対応するために更新する必要がある。愚かさ、貪欲さ、闘争心はすべて完全に許容される。しかし、誤報の拡散を含む欺きは許容されない。価格に影響するデータは広く利用可能な状態にしておく必要がある。そして、決済システムも改修されなければならない。米国での証券取引の決済期間は2日であり、このタイムラグが現金不足につながる可能性がある。より広範囲の資産についてより速い取引に対応できるようにし、システムを暴落に耐えうるものにする必要がある。Netflixのドラマでは、ウォール街の邪悪なプロを相手に、ハンドルネームRoaring Kittyのようなデイトレーディングのヒーローが登場することは間違いないだろう。しかしドラマの世界の外では、真の金融革命において勝利するには、はるかに強大なキャストが必要である。

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今週号The Economistの表紙にもなった、この記事のイラストにもご注目!

荒々しい雄牛はウォール街のブル(雄牛)マーケット(強気相場)を、その背に乗る人のマスク代わりの赤いバンダナは、雄牛をさらに煽る赤旗を示しています。

そして雄牛の足元はウォール街の石畳ではなく、個人投資家たちが売り買い注文をするパソコンのキーボードになっていますね!

 

 

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バイデン政権の誕生:後始末から民主主義の再生へ(2021年1月23日)

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今週のトップ記事の全文和訳をお届けします!

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Morning after in America
The outlook for America looks grim, but that could quickly change
What to expect from a Biden presidency

 

宴の後の米国:バイデン政権に期待すること

 

ジョー・バイデンは、少なくとも1987年に初めて大統領選に出馬してからずっと、ホワイトハウス入りを夢見てきた。その夢は今週実現したが、思い描いてきたものとは異なっていたに違いない。米国の新型コロナウイルスによる死者数の発表は40万人を超えた。バイデン政権の最初の100日が終わる頃には50万人を超えているかもしれない。何百万人もの米国人が失業している。1988年の大統領選挙の勝者が執務室から東欧の民主主義の勝利を眺めていたのに対し、バイデン大統領は米国内の民主主義の衰退と戦わなければならない。幸先の良いスタートとは言えないが、今後数ヶ月のうちに、ペンシルバニア通り1600番地からの眺めが劇的に改善する可能性はある。

 

米国の立て直しは新型コロナウイルスを制御することから始まる。国民のワクチン接種を進めることは、連邦政府、州政府、地方自治体の協力体制が試される手ごわい作戦である。連邦政府がポリオ撲滅のために実施したような巧妙な計画であれば、多くの命を救うことができる。しかし、たとえ計画が不完全であっても、春から夏にかけて大きな効果が現れるだろう。気温が上がり、屋外で過ごす時間が長くなることも有利に働く。新型コロナウイルスは爆発的に拡散する。しかし再生産数(1人の感染者から何人に感染するかを示す値)が1を下回るようになれば、感染者数は激減する。

 

そうなれば米国の景気回復に追い風が吹く。労働市場の落ち込みは、金融危機下でバイデン氏がオバマ政権の副大統領に就任した当時と同じ水準にあるが、今回の景気後退の状況は全く異なる。2020年の実質可処分所得は、連邦政府による巨額の景気刺激策もあり、おそらく過去20年間で最も速いペースで上昇した。銀行業界も健全に見える。そして経済的な影響も広範囲に及ぶものではなく、狭い空間に多くの人が集まらざるを得ないビジネスに従事する人々に集中している。しかし1年にわたり家に閉じこもっていた人々が街に出るようになれば、そうしたビジネスへの需要の多くは回復するだろう。

 

連邦政府が実質的にゼロコストで借り入れができることを利用して、バイデン政権は新たに1.9兆ドルの財政刺激策を計画している。パンデミックが発生してからの財政支援総額は危機以前のGDPの27%に達している。この支援策は上院を通過しない可能性があり、またすべてが本当に必要なのかも明らかではない。しかし、仮に金額が縮小されたとしても、ワクチン接種支援の積み増しや失業保険の延長、子どもの税額控除の拡大は大きな効果があるだろう。税額控除の拡大だけでも子どもの貧困を半減させることができる。

 

就任式にあたり25,000人の軍隊を動員せざるを得なかった政治的危機については、その原因がすぐに消えることはないだろう。自分以外の何物にも忠誠心を持たない人間に対する忠誠心を原則に組織化された共和党*、人種差別主義者との危険な関わり、代替的事実の台頭など、すべてはずっと前から起きていることである。しかし、FBIは国内テロの脅威を監視している。前大統領は今や2024年に再出馬する可能性のある一市民にすぎない(弾劾裁判の後に議会が出馬を禁止しないと仮定すればの話だが)。そしてバイデン大統領は就任式で法の支配と人種間の平等への明確な支持を宣言したが、今回それは陳腐でなく、まさしく重要な意味を持った。

 

この宣言が米国政治の緊張を緩和し、新たな可能性を開くだろう。議会の責務を果たそうとする共和党員と協力することで、バイデン政権はインフラや気候変動、新型コロナウイルスに関する法案を通過させることができる。教科書には、民主主義とは選挙によって折り合いをつけて対立を管理し問題解決を行うこと、と書かれている。連立を模索する大統領ならば、その精神の幾ばくかがワシントンで復活するかもしれない。**有権者こそ、四六時中の党派戦争よりもそれを望んでいるだろう。

 

実際に、そうした動きが必要である。米国は政府の積極的な支援が必要な課題に直面している。この1年間、パンデミック下での学校再開において米国は先進国中で最悪の状況にある。就学率の低下は、多くの子どもたちが教育を受けられずにいることを示唆している。アフリカ系米国人とヒスパニック系米国人の死亡率の高さは、健康が肌の色とリンクしていることを思い起こさせる。トランプ政権の4年間に機関は空洞化し、不正行為へのブレーキは弱体化した。トランプ氏の退任直前の行動は、何百人もの高齢の患者に利益目的で不必要な目の治療を行って有罪判決を受けた医師を恩赦することだった。また、トランプ政権の役人がロビイストとなることを禁じる自らの執行命令を撤回することだった。

 

過去4年間はまた、米国の外交上の問題も生み出した。海外の指導者たちは、トランプ政権を誕生させた勢力が将来また戻ってくる可能性を心の奥底で見据えており、米国の外交官によるいかなる合意も一時的なものになるリスクがある。また、バイデン政権の外交政策は、一連の著しく困難なトレードオフを迫られるだろう。2月5日に期限切れとなる戦略兵器削減条約の延長(新START条約)の署名にはロシア政府の協力が必要だが、ロシア政府は、ロシアで最も著名な野党政治家アレクセイ・ナワリヌイ氏を殺害しようとしたばかりか、つい最近には拘束している。また、バイデン政権は気候変動に関して中国の協力を必要としているが、中国は新疆ウイグル自治区ウイグル人に対し、前政権が「ジェノサイド(大量虐殺)」と呼んだ事態に関与している。

 

多くのことがうまく進まない可能性がある。上院共和党は、バイデン大統領が民主党だからという単純な理由で、すべてのことに反対するかもしれない。一方で民主党左派は、共和党と取引しようとしたという理由でバイデン大統領と対立するかもしれない。トランプ政権下では政治の駆け引きは単純だった。米国の問題を解決するというよりも党派的な争いを煽ることが中心だったからだ。現実に向き合うことははるかに難しい。現在のように取り組むべき問題が山積しているときはなおさらだ。

 

成功のチャンスを最大化するには、バイデン大統領は自らの強固で庶民的な中道路線を貫くべきである。今、その中道路線こそが求められている。そして西側同盟国は、一夜にして奇跡的な変化が起こると期待せず、辛抱強くあるべきだ。ホワイトハウスが自制心を取り戻すことは、長い旅の第一歩に過ぎない。***しかしそれこそ、米国の再生に必要なことである。

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私はThe Economistのこの記事から、トランプ前政権の「宴=失政」に対する痛烈な批判を感じ取りました。

 

党派間の争いを煽って国益でなく自らの利益を追求していたトランプ大統領から、

*The Republican Party that became organised around a principle of loyalty to a man who has no loyalty to anything apart from himself

 

 

中道・連立路線を通じて民主主義の再生を目指すバイデン大統領へ。

**With a president inclined to build a coalition, a little of that spirit might return to Washington.

 

それはホワイトハウスが自制心を取り戻すことなのだと。

***The return of restraint to the White House will be only the first step in a long journey

 

では次の記事も、どうぞお楽しみに。

 

 

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