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The Economist最新号が出ました(2020年9月19日号)

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The new energy order
Power in the 21st century

21世紀の新たなパワー

<全文和訳>

石油は20世紀の自動車、戦争、経済を支え、地政学の土台であった。今、世界はエネルギーショックの真っ只中にあり、それが新しい秩序へのシフトを加速させている。今年初めに発生し世界経済を揺るがした新型コロナウイルスの拡大により、石油の需要は20%以上落ち込み、価格は崩壊した。それ以降の経済回復は不安定な状況が続き、パンデミック以前への回帰は考えにくい。化石燃料の生産国は脆弱性への対応に迫られている。1928年からずっとダウ平均株価の構成銘柄であったエクソンモービルはその地位を失った。サウジアラビアなどの石油国は原油価格が1バレル70~80ドルでないと採算が取れないにもかかわらず、現在の価格はわずか40ドル台で推移している。

 

これまでにも石油需要の低迷はあったが、今回はそれと同じ類ではない。一般の人々や国家そして投資家が気候変動の問題に目を覚まし、クリーンエネルギー産業が勢いを増している。資本市場の動きが変わり、今年はクリーン電力株が45%上昇している。金利がゼロに近い状態で、政治家はグリーンインフラ計画を支持している。米国のジョー・バイデン民主党大統領候補は、米国経済の脱炭素化に2兆ドルを支出するとしている。欧州連合EU)は8,800億ドルの新型コロナウイルス関連の復興計画の30%を気候対策に充てており、ウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長は今週の一般教書演説で、今後10年間に温室効果ガスの排出量を1990年比で55%削減する意向を表明した 。

 

21世紀のエネルギーシステムは、石油の時代よりも健康に良く、政治的に安定しており、経済変動の影響を受けにくいというプラス面をもたらす。ただし移行には大きなリスクが伴う。無秩序に行われれば産油国の政治的・経済的な不安定さが増大し、グリーンなサプライチェーンの支配力が中国に偏る可能性がある。それよりも危険なのは、進行のスピードが遅すぎる事態に陥ることだ。

 

今日、化石燃料はエネルギー供給源の85%と圧倒的な割合を占めている。しかし、このシステムは汚染を伴う。発電は温室効果ガス排出量の3分の2を占め、化石燃料の燃焼による汚染で年間400万人以上が死亡し、その多くは新興国の大都市で発生している。また、石油は政治的な不安定さを生み出している。何十年もの間、ベネズエラサウジアラビアのような石油国家は他に経済発展の道を探ることなく、カネやえこひいきにまみれた政治を続けてきた。安定供給を確保するため、世界の大国はこれらの国々に影響力を持とうと、特に米国が約6万人の兵力を投入する中東地域で競い合ってきた。化石燃料は経済の不安定さの原因でもある。石油市場は一貫性のないカルテルの影響を幾度も受けている。世界の石油埋蔵量が特定地域に集中しているため、供給は地政学的な変動に対して脆弱である。1970年以降、6ヶ月間で30%以上の価格変動が62回も発生していても不思議ではない。

 

新しいエネルギーシステムが姿を現しつつある。大胆な行動を起こせば、太陽光発電風力発電などの再生可能エネルギーが供給量に占める割合は、現在の5%から2035年には25%、2050年には50%近くまで増える可能性がある。石油や石炭の使用量は減少し、よりクリーンな天然ガスが中心となるだろう。このような構造は最終的には大きな利益をもたらす。最も重要なのは、 エネルギーの脱炭素化により、大規模な干ばつ 、飢饉、洪水やそれに伴う大規模な住民移動といった気候変動のもたらす野放図な影響を回避できることだ。市場が成熟すれば、供給は地理的にも技術的にも多様化し、その結果、政治的な安定にもつながるはずである。産油国は自国の改革に取り組まねばならず、こうした国々の政府が国民への課税に軸足を移し始めれば、一部の国ではより民主化が進むだろう。かつて産油国の政治に干渉することでエネルギーの安全保障を探っていた石油消費国は、自国の電力産業の規制に目を向けるようになるだろう。また、21 世紀のシステムは今よりも経済的に変動しにくいものになる。電力価格は少数の大物が決めるのではなく、競争と段階的な効率化によって決定されることになるからだ。


しかし、より良いエネルギーシステムが出現したとしても、それへの移行において管理が行き届かないリスクが存在する。2 つのリスクが際立っている。まず、独裁的な中国が、主要部品の製造や新技術の開発で優位に立っていることを背景に、世界の電力システムに対して一時的に影響力を持つようになる可能性がある。現在、中国企業は世界の太陽電池モジュールの72%、リチウムイオン電池の69%、風力タービンの45%を生産している。また、コバルトやリチウムなどのクリーンエネルギーに欠かせない鉱物の精製も中国企業が多くを担っている。中国は石油国家ではなく「電力国家」になるかもしれない。この6ヶ月の間に中国は電気自動車のインフラと送電への投資を発表し、パキスタン原子力発電所のテストを行った。またコバルトの備蓄を検討している。

 

中国のパワーは他国の動きのスピードに左右される。ヨーロッパにはオルステッド社、エネル社、イベルドラ社といった風力・太陽光発電所の大手が存在し、世界中でプロジェクトを展開している。また欧州の企業は自社の排出量削減競争でリードしている。米国での進展は、シェールオイルとガスの台頭によって世界最大の石油生産国となったことと、脱炭素化対策に対する共和党の抵抗による影響を受けてきた。もし米国が気候変動問題に対して立ち上がり、炭素税導入や新しいインフラの導入等を進めれば、米国の資本市場、国立エネルギー研究所、大学などが推進力となって米国は非常に優れたグリーンパワーになるだろう。

 

もう一つの大きなリスクは、世界のGDPの8%を占め、9 億人近くの人口を抱える石油国家における移行である。石油需要が減少するにつれ、石油国家は市場シェアを激しく奪い合い、最も安価でクリーンな原油を提供する国が勝利することになる。これらの国々が経済的・政治的な改革を早急に推し進めるとしても、そのために必要な資金は先細りする可能性がある。今年第2四半期に、サウジアラビアの政府収入は49%減少したが、こうした苦境はこの先何十年も続く。

 

このような危険に直面すると、移行にもっと時間をかけることで影響を緩和しようという誘惑に駆られる。しかしそれは、気候変動に関連する別のさらに不安定な状況をもたらすことになる。移行のスピードを落とせば、現在の取り組みにより気温上昇を産業革命以前の2℃以内に抑えることはおろか、気候変動による環境、経済、政治への影響を抑えるために必要な1.5℃以内に抑えることもまったくおぼつかない。例えば、風力発電太陽光発電への投資額は年間約7,500億ドルが必要とされるが、これは現状の金額の3倍である。化石燃料を使用しない再生可能エネルギーへのシフトは加速させなければならないが、そうなれば、地政学的な混乱は深まる。新しいエネルギー秩序への移行は不可欠だが、それは同時に痛みをもたらすのだ。

 

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The Economist最新号が出ました(2020年9月12日号)

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The future of work
Is the office finished?
The fight over the future of the workplace

 

オフィスの時代は終わったのか?
職場の将来をめぐる争い

<全文和訳>

ほとんどの人がオフィスというと毎日決まっていくところというイメージを抱くが、今やオフィスは急速に、経済的な不確実性と活発な議論の火種になりつつある。世界中で、労働者、上司、家主、政府がオフィスはもはや時代遅れなのかを問い、それぞれ全く異なる結論に達しようとしている。フランスではオフィスワーカーの約84%がオフィスに戻っているが、英国での割合は40%に満たない。ツイッター社のトップであるジャック・ドーシー氏は、同社の従業員は「永久に」在宅勤務可能であるとしているが、Netflixの創業者であるリード・ヘイスティングス氏は、在宅勤務は「マイナスの影響しかない」と言う。企業が逡巡する中で、世界全体で30兆ドル規模の商業用不動産市場はより深刻な不況の恐れに直面している。また、一部の労働者が通勤やプレタマンジェ(英国のファストフードチェーン)通いのない未来を無邪気に夢見る一方で、昇進や給与、雇用について不安を抱く人もいる。

この意見の相違は、新型コロナウイルス感染症をめぐってソーシャルディスタンスがどの程度有効なのか、またワクチンが普及するまでどのくらい時間がかかるのかといった不確実性を反映している。しかし、それだけではない。パンデミックはテクノロジーの大規模な導入の引き金となり、ホワイトカラーの仕事を変えることになったが、オフィスの多くが20世紀の遺物として存在していたことも明らかにしたのだ。今回のパンデミックは、長きにわたり手付かずのままであった技術的・社会的な実験を促すことになるだろう。それは、今まで通りでもなければ、オフィスの完全な終焉でもない。新たな時代は有望であると同時に、企業文化を始め様々なことに脅威をもたらす。国々は変化に抵抗するのではなく、時代遅れの雇用法を改正し、都市の中心部の再構築に着手する必要がある。

200年前、蒸気機関の発明によって労働者が工場に集まり、新たな機械の利用が進んだ。19世紀後半に巨大企業が出現すると、多くの労働者を管理する必要が生じた。管理者たちは計画会議を開き、稟議書や請求書などの書類を回してビジネスを運営するようになった。これらはすべて、スタッフが互いの近くにいることが前提であり、そこから車や電車で会社に通勤するというパターンが生まれた。

このシステムには常に複数の大きな問題点があり、そのうちのいくつかは時間の経過とともに悪化してきた。平均的な米国人労働者は通勤のために週に4時間以上をかけており、その手間とコストに手を焼いている。オフィスの騒音や堅苦しさを嫌う人もいれば、オフィス内での差別に苦しむ人もいる。オフィスワーカーたちは子育てとの両立に苦慮しており、共働きの家庭が増えるにつれこの問題は深刻化している。

こうした現状の打破に新たな技術をもっと活用できたはずだと思う向きもあるだろう。実際に、PDFが誕生したのは1991年であり、ネット通信コストは2000年代に大幅に下がり、リモートワークを可能にするZoomやSlackが誕生したのは10年近く前のことである。しかし、惰性によってオフィスは変革を逃れてきた。例えば、パンデミックの前にシェアオフィスの企業(問題を抱えたWeWork等)の世界市場シェアは5%にも満たなかった。ほとんどの企業は、クライアントの要望をまたず率先してリモートワークに切り替えたり、不動産資産やリースといったサンクコストを除却することに難色を示した。

新型コロナウイルス感染症の拡大は、この状況をひっくり返した。パンデミック前、在宅で勤務する米国人は3%に過ぎなかったが、現在は膨大な数の人々が在宅勤務を行っている。オフィスプリンターの代名詞であるXerox社でさえ、多くのスタッフが自宅で仕事をしている。多くの人がリモートワークをするようになると、強力なネットワーク効果が生まれ、新しい顧客が増えるごとにサービスはより便利になっていく。現在、Microsoft Teams、Zoom、Google Meet、Cisco Webexの合計ユーザー数は3億人以上である。リモートワークに対する形式的なハードルは吹き飛ばされた。民事裁判所もリモートで運営され、公証人はオンラインで参加している。銀行の中には、新規口座開設にあたり本人確認のための支店への来店義務をなくすところも現れた。

ワクチンの普及後、こうした変化はどの程度まで維持されるのだろうか。考えられる最良のガイドは、感染拡大の制御に成功している国を見ることだ。そうした国々では、オフィスは「オプション(任意)」化している。つまり、オフィスはあるが、そこへ出勤する頻度は少なくなっている。例えば、モルガン・スタンレーの調査によると、ドイツでは現在、オフィスワーカーの74%がオフィスに行くが、そのうち週5日出社しているのは半数だけである。こうした割合は、業界や都市によって異なるだろう。通勤が楽な場所では多くの人が通勤するが、通勤時間が長く通勤コストも高い大都市では出勤する人の数は少ないと思われる。

会社は、オフィスが第二の家ではなくハブとなるような、散発的な出社パターンに適応しなければならないだろう。Netflixヘイスティングス氏が危惧するように、時の経過とともに企業のソーシャルキャピタルは脆弱化し、創造性が低下し、ヒエラルキーがあいまいになり、チームスピリットが薄れていく危険性がある。この問題の解決策は、特定の時間帯にグループが集まって親交を深めたり情報交換をしたりすることで、よりターゲットを絞ったスタッフ間の交流を可能にすることだ。オンラインでのやりとりを「ゲーム化」して自発性を促す新技術が、いずれ退屈なZoomの世界に取って代わるかもしれない。こうしたことで企業文化の再構築を進めるとともに、企業は不動産の見直しを行う必要があるだろう。保守的な投資家は、大都市のオフィススペースのストックは少なくとも10%減少すると予想している。ただし、一般的な法人賃貸契約期間は短くても半年間であるため、これが実現するにはまだ時間がかかるだろう。

各国政府は、都心のカフェの大量閉店からニューヨークの地下鉄システムが直面している160億ドルの予算不足に至るまでの経済的なダメージを少しでも食い止めるべく、以前の状況を取り戻そうという誘惑に駆られるかもしれない。英国政府は労働者をオフィスに戻そうと躍起になっている。しかし、テクノロジーの変化に抵抗するよりも、それがもたらす効果に期待する方がはるかに良い。真っ先に取り組むべき優先事項は2つある。

第一に、膨大な雇用法体制を現代化することだ。ギグ(単発の雇用契約)経済がすでに、現在の法体制が時代遅れであることを示している。労働者の権利と責任に関する新たな難しい問題が浮上している。例えば、会社はリモートで働く従業員の生産性を評価するためモニタリングを実施できるのか?従業員が自宅で仕事中にケガをした場合、誰が責任を負うのか?もしホワイトカラーの労働者が特別待遇を得ているという認識が少しでも生まれれば、そうでない労働者の強い反発を招くことになるだろう。

第二は、都市の中心部に関する取り組みである。一世紀に渡り、都市の中心部は、回転いすと書類の山でいっぱいのオフィスが入居している高層ビルに支配されてきた。複雑な都市計画のルールを体系的に見直し、住居やレクリエーション施設を含む新しい用途を含め、ビルや地区の再開発を可能にする必要がある。もしかしてあなたも、今月あたりオフィスに戻るのかもしれない。席についてパソコンにログオンした後、自宅よろしくリラックスしすぎないようご注意を。

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The Economist最新号が出ました(2020年8月21日号)

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Our kind of people
America’s black upper class and Black Lives Matter
The United States is also home to the biggest group of highly successful black folk in the world

米国の黒人上流社会とBlack Lives Matter

 

<全文和訳>

ローレンス・オーティス・グラハムは、昨年夏にマーサズ・ヴィンヤード島でカマラ・ハリスに初めて会った場所を思い起こしていた。それは映画監督のスパイク・リーの別荘であった。つい最近、民主党ナンバー2となったカマラ・ハリスのために、リーはそこで参加費用1人1,500ドルの資金集めパーティを行ったのだ。「カマラは私たちにとっての新たなバラク・オバマだ」と、ニューヨーク出身の作家であり財産弁護士でもあるグラハムは興奮気味に語る。グラハムが言う「私たち」とは、アフリカ系米国人、特にアフリカ系米国人の上流社会の中でも頂点に位置する人々のことである。

グラハムはそれを承知している。彼は1999年に出版した「Our Kind of People」で、米国で最も裕福な黒人社会の習慣、クラブ、ライフスタイルについて内側から語り、その名を知られるようになった。この本は現在37刷であるが、出版された当初は物議を醸した。1870年代以降、黒人の富裕層がどのように繁栄してきたかについて無知の白人もいた。「黒人に社会経済的な階級があると考えたことがない人も多い」とグラハムは言う。黒人富裕層の一角として公に名前を挙げられたことに憤慨した人もいれば、逆に挙げられなかったことに激怒した人もいた。一方でそうした人々に怒りをぶつけた非富裕層の黒人読者もいた。

概して黒人の米国人は、最も裕福な階層を含め、豊かさのレベルは白人よりも著しく低いままにとどまっている。米国のシンクタンクであるブルッキングス研究所の2月の報告書によると、黒人の所得上位10%の資産の中央値は343,160ドルであるが、白人の所得上位10%の場合はその5倍以上の1,789,300ドルであった。連邦準備制度理事会の調査によると、黒人家庭の約2%が100万ドル以上の資産を持っているが、白人家庭の場合はその割合が15%を上回る。

しかし、アフリカ系米国人のエリート社会は巨大ではないにせよ、影響力を持っている。グラハムの本の内容は近々、連続テレビ番組になる予定だ。富裕層の頂点に立つ黒人一族は、長い間、招待制のクラブを持ち、そこで社交を行い、職業上のネットワークを作り、子どもの社交界デビューの舞踏会を行ってきた。1938年に設立されたジャック&ジル・オブ・アメリカはその代表例で、247の支部に4万人の会員を擁し、ビジネス、社会、政治の分野でのリーダー育成に注力している。

ジャック&ジル・オブ・アメリカの伝統はしっかりと維持されており、今週、第44回全国大会が4日間にわたりバーチャルで盛大に開催された。このクラブは明らかに、最も成功した人たちのためのものである。ダニエル・ブラウン会長は「エリート」という言葉を嫌うが、会員の子どもの98%が大学に通っているという。(これは重要な点である:高等教育進学率の上昇は、過去半世紀にわたり、ほとんどの黒人労働者の収入が一貫して減少しているにもかかわらず、高給取りのアフリカ系米国人の収入が常に上昇している理由を最もよく説明している。)会員のほとんどは職業的に成功している。「会員はどこでもほとんどトップの地位にある」と同会長は言う。

富裕層のクラブがどこもそうであるように、ジャック&ジル・オブ・アメリカも多くの慈善活動を行っている。ブラウン会長によると、今年は247名の大学費用を援助した。また、国民の義務や投票の重要性、健全な金融教育の必要性を推進している。それらはすべて価値ある活動であるが、ブラック・ライブズ・マター(BLM)の活動家たちが時折、騒動を起こすのとは対照的に、地味に見えてしまうこともある。社交界デビューの舞踏会では、シンデレラのような白いドレスを着た控えめなティーンエイジャーたちが、真珠をまとった年配の女性たちに見守られながら丁寧に膝をつきお辞儀をしている。

しかし、誰もが会員時代を懐かしみ話の種にするわけではない。エリートグループに属していることを自慢する政治家はほとんどいない。ニュージャージー州上院議員であるコーリー・ブッカーは若かりし頃の「ジャック&ジル」での話をすることはほとんどない。カマラ・ハリスは女性会員で構成される同様のエリートグループであるザ・リンクスのメンバーであるが、選挙演説でそれを語ることはないだろう。しかし、最も急進的な指導者やその子どもたち(マルコムXやリーを含む)の多くが、ジャック&ジルや類似の団体に所属していたことがある。

アフリカ系米国人エリートたちは、新型コロナウィルスの世界的大流行や、警察による暴行事件、そしてここ数ヶ月のBLM抗議活動にどう対応しているのだろうか?ブラウン会長はBLMを「新しい名前がついた、公民権運動の象徴」だとして、抗議者たちが「警戒心」を強め、これまで無視されていた問題について白人を含む一般の人々の関心を高めたことを評価する。ただし、BLMはあくまでも団体やクラブ、社交界有権者登録団体や慈善団体といった「素晴らしい多くの活動形態」の一つに過ぎず「いろんな人がいろんな活動をする必要がある」のだと言う。

国際的なインフラ投資ファンドを運営するシカゴの大富豪レリー・ノックスと、妻で同じくシカゴで広告代理店を経営するファリッサ・ノックスも同じような見方をしている。現在進行中のBLMの「白人至上主義」をめぐる議論は歓迎すべきことだ。「私はBLM活動を支持する。議論されるべきテーマだ」とファリッサ・ノックスは言う。しかし、ノックス夫妻は個人的な資金と時間を、国勢調査票への記入や陪審員の義務履行、そして何より有権者登録の重要性について黒人住民を教育する地元の団体に投資したいと考えている。構造的な変化は、自分たちが経営する企業を含む組織や司法改革、そして新しい人々を政治の世界に送り込むことからもたらされると考えているからだ。街頭での怒りの声はすぐに消えてしまうかもしれない。

しかし、最も裕福な人々でさえ、警察による暴行や嫌がらせに対する怒りを覚え、街頭に立つ抗議者に味方している。レリー・ノックスは、アフリカ系米国人の男性の誰にも起こり得る公共の場での辱めについて率直に語る。彼はかつて、郡警察委員会の委員長を務めていたにもかかわらず、娘を学校に迎えに行く途中に家の近くで私服警官に呼び止められ、追い回されたという。彼によると、裕福な黒人家庭は、ほとんどが白人家庭の居住区に引っ越すとすぐに、トラブルを回避するために自らの家族の写真を持って地元の警察署にあいさつに行くのだという。「私たちは積極的に行動しなければならない。こんなことをするのは全くもって屈辱的だが、そうしないとどうなるか、嫌というほど学んできた。そしてまだ、こんな状況は続いている。」

 

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The Economist最新号が出ました(2020年8月15日号)

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Kamala Harris
What Kamala says about Joe
Joe Biden’s choice of running-mate reflects well on him

カマラ・ハリスはバイデンにとって順当な選択

youtu.be

 

<全文和訳>

 

民主党ジョー・バイデン大統領候補のこれまでの戦略は、可能な限り余計な手出しをしないことである。ニュースの話題がトランプ大統領新型コロナウイルス感染症による死亡者と経済への影響で占められるほど、バイデン氏の選挙運動は有利になる。そしてこの戦略は今のところうまくいっている。世論調査の平均値では、バイデン氏のリードは9ポイントにアップしている。民主党は大統領選に勝利し、下院で過半数を維持するだけでなく、今年初めには見込みのなかった上院での勝利も収める可能性がある。この3つの選挙での民主党勝利は、米国を変える力になる。

しかし、米国はどう変わるのか?バイデン氏のステルス選挙戦は、11月の大統領選に勝つためのアプローチとしては機能してきたが、バイデン氏がどのような大統領になるかはあまり明らかにしてこなかった。しかし、カマラ・ハリス上院議員を副大統領候補に選んだことは、今までの路線とは一線を画すものである。副大統領候補の選択はバイデン氏が迫られた最初の大きな決断であり、ホワイトハウスでどのような意思決定がなされるか、そして、将来のバイデン政権のイデオロギー的な傾向を示唆するからである。

バイデン氏が今回、自らも8年間経験した副大統領職にハリス氏を選んだことは順当だ。バイデン氏は民主党の予備選中に自らを最も激しく攻撃した人物を恨みなしに選んだ。ハリス氏は米国副大統領候補として初のアフリカ系そしてアジア系(ハリス氏の両親はジャマイカとインドの出身)女性であるという型破りなバックグラウンドを持つ。一方で典型的な出世コースを通って高官に上り詰めた人物であり、サンフランシスコ地方検事、カリフォルニア州司法長官を経て現在は上院議員を務めている。まっとうな統治の復活を公約に掲げているバイデン氏にとって、ハリス氏の経歴は強みになる。

今回の選択は、将来のバイデン政権について何を物語るのか?バイデン氏と同様、ハリス氏は民主党の中道派である。つまり、気候変動、医療、企業と国家の関係について、革命ではなく段階的な変化による前進を追求することを意味する。

リバタリアン進歩主義的な民主党員の両方にとって、ハリス氏の最大の弱点は検事時代の経歴である。カリフォルニア州は刑務所の過密化と保護観察制度の機能不全に悩まされており、ハリス氏はどちらの改善も達成しなかった。ハリス氏は大麻の合法化に反対し、非暴力犯罪を積極的に起訴した。しかし、今回の選挙戦がトランプ氏が望むような「法と秩序」を争点とするものになれば、この経歴はおそらく有利に働くだろう。米国の大都市で殺人事件が急増している年に犯罪に甘いというイメージは致命的だが、ハリス氏が今回そういう印象を持たれることは考えにくい。

ハリス氏が特にイデオロギー的ではないことも、11月の大統領選にはプラスに働く可能性がある。トランプ陣営は急進的な左派を期待していたが、ハリス氏の登場で、トランプ大統領は最初の攻撃の軸を「インチキなカマラ」とせざるを得なかった。トランプ氏の侮辱によく見られるように、侮辱には真実が含まれている。民主党予備選中、ハリス氏は、世論が民間の健康保険の廃止に傾いていると読んでこれを支持する姿勢を見せた。その後、その論調がトランプ氏の再選に有利だとわかるとこれを撤回し、実行不可能な折衷案の支持に回った。このことはハリス氏が固定的な考えを持っていないことを示唆しており、また、ワシントンの取引においては有用に働くこともある柔軟性の持ち主であることを示唆している。

要するに、ハリス氏の路線は、バイデン氏とよく似ているということだ。副大統領候補は、大統領候補の特定の弱点をカバーすることが目的で選ばれることもある。マイク・ペンス副大統領の福音主義的な信心とトランプ大統領ヒュー・ヘフナー的性向の組み合わせはその一例だ。ハリス氏の場合、どちらかというと増幅器のような存在といえる。バイデン氏と同様、ハリス氏も民主党とともに歩んできたが、例えば刑事司法の分野で党の多数派から大きく離れることはなかった。また、ハリス氏は高官や議員として十分な経験を積み、立法者としての有能さも発揮している。バイデン/ハリス陣営は世間の大きな注目を浴びるような存在ではないかもしれないが、トランプ現政権とは対照をなす資質を有しているといえるだろう。

この点は、ハリス氏が大統領職を代行する、あるいは自身が将来大統領選で勝利する可能性を考えると重要なことである。米国人男性の平均寿命は76歳であるが、バイデン氏は77歳である。バイデン氏が11月に勝利した場合、任期中にハリス氏がバイデン大統領の代行を求められる可能性がある。バイデン氏が敗北したとしても、ハリス氏は次期大統領選挙の最有力候補になるだろう。現在の米国における人種差別に関する社会不安を考えると、ハリス氏は多くの点で、安全で堅実な副大統領の選択肢だと思われる。そしてこれは進歩の兆しである。

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The Economist最新号が出ました(2020年8月8日号)

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The absent student
Covid-19 will be painful for universities, but also bring change
They need to rethink how and what they teach

新型コロナウィルスが大学にもたらす痛みと改革

 


The Economist August 8, 2020: Leaders: The absent student

 

<全文和訳>

通常であれば、夏の終わり頃になると新興国の空港は、豊かな世界で新たに大学生活を始めるため飛び立とうとする緊張した面持ちの18歳たちで溢れかえる。毎年500万人以上を数える留学生の旅立ちは、グローバリゼーションの賜物と言える。学生たちは世界を目の当たりにし、大学は新たに高額の学費を払う留学生を獲得する。しかし、飛行機は離陸せず国境が閉鎖されている今、この風物詩もまた新たなパンデミックの犠牲者になろうとしている。

新型コロナウィルス感染症は学生たちに不都合をもたらした。多くの学生は、都合の悪い時間にスタートするオンライン講義に親がいる居間から出席するか、事態が落ち着くまで大学に戻れないかのどちらかを迫られている。大学はもっと大きな困難に直面している。今後、留学生からの莫大な収益をまるまる失うことになるだけでなく、キャンパスで感染が拡大するのを防ぐためにこれまでの運営方法を変えなければならない。

しかし、この災いが改善をもたらす可能性もある。長年にわたり、政府の補助金と入学需要の拡大を盾に、大学は学生と社会の両方のためになる変化に抵抗してきた。しかし、大学改革はもはや待ったなしの状況に置かれたといえる。

高等教育のブームが訪れている。1995年以降、良質な教育機関で学位を取得することが重要だとの考えが豊かな世界から新興国へと広まるにつれ、高等教育を受ける若者の割合は16%から 38%へと増加した。その結果、英語圏の先進国の至る所で立派なキャンパスが目立つようになり、名の知られた大学であるほど、新興国からの希望に燃える留学生を引き寄せて財政的に潤っている。

しかし、先行きは暗い。中国は欧米の大学に高額の学費を払う留学生を送り込んできたが、欧米と中国の関係は悪化している。軍隊と関係のある学生は米国から追放されることになっている。

政府も大学に冷たくなっている。教育の系列に沿って政治が分断される時代にあって、大学は一部の政治家を説得するのに苦労している。トランプ大統領は大学を「教育ではなく急進的左翼者への洗脳を行う場所」と揶揄している。共和党有権者の約59%が大学に否定的な見方をしているが、民主党有権者の場合は18%だ。英国では、ブレグジット(英国の欧州連合離脱)に対する大学の反対運動が盛んだが、米国、オーストラリア、英国では高等教育の4分の1から半分が学生ローンや補助金の形での国庫負担であることを考えると、こうした動きは政府の大学支援意欲に水を差しかねない。

政治家の間にみられる懐疑的な意見は感情論のみではない。政府が高等教育に資金を投じるのは、人的資本を増やすことで生産性を高めるためだ。しかし、大学入学者数が増える一方で、先進国の生産性の伸びは低下している。多くの政治家は、大学が適切な科目を教えておらず、労働市場で必要とされる以上の大卒者を生み出していると考えている。国家が手を引き始めているのも不思議ではない。米国では大学への政府支出はここ数年横ばいだ。オーストラリアでは文系コースの学費は倍になるが、政府が成長に役立つと考える科目の受講費は下がる見込みだ。

学生にとっての大学のメリットにも疑問が生じている。大卒のプレミアムは全体の平均としてみれば金銭的な対価に見合うだけの価値はあるが、すべての人に当てはまるわけではない。英国の財政研究所(IFS)は、大卒者の5分の1は大学に行かなかった方が経済的に恵まれていたとする計算を発表している。米国では、10人に4人が大学入学から6年経っても卒業しておらず、また大卒者の賃金プレミアムは縮小している。世界全体では大学入学者数は増加を続けているが、米国では2010年から2018年の間に8%減少した。

そして新型コロナウィルス感染症の世界的な流行が起こった。景気後退期は雇用不安から資格を求める人が増えるため高等教育の需要は伸びる傾向があるが、それでも大学の収入は低下するとみられる。政府のルールが学生の意欲を削ぐこともあるだろう。先月、トランプ政権は、授業がオンラインに移行した場合は新たな外国人学生の入国を認めないと発表した。オーストラリアを代表する4つの大学(シドニー大、メルボルン大、UNSW、モナシュ大)は収入の3分の1が留学生頼みだ。IFSは、英国の大学が被る損失額は年間収入の4分の1を上回ると予想している。

新型コロナウィルス感染症によるダメージは、少なくとも短期的には、大学がこれまで以上に政府への依存度を高めることを意味している。IFSによると、英国の13の大学が破綻の危機にある。政府は大学を支援すべきであるが、良い教育や研究を実施したり地域社会に利益をもたらす大学を優遇し、それらに当てはまらない大学は淘汰されるべきである。

生き残った大学はパンデミックから学ばなければならない。これまでほとんどの大学、特にその国のトップに位置する大学は、学部課程をオンラインで提供することに抵抗を示してきた。これは、遠隔教育が良くないということではなく(昨年は大学院生向けの講義の3分の1が完全にオンラインだった)、3年または4年の学部教育はキャンパスで受けるものだという考えがあったためだ。大学入学の需要が非常に旺盛であったため、大学はこれまで変化の必要に迫られなかった。

しかし今、その変化の波が避けられないものとなっている。デビッドソン・カレッジのカレッジ・クライシス・イニシアチブによると、来期もほぼまたは完全に対面で講義を実施するとした米国の大学は4分の1未満であった。この状況が続けば、大学入学の需要は減ることになる。多くの学生にとって、大学に行くのは将来の収入を増やすためだけではなく、親元を離れて友人を作り、パートナーを見つけるためでもあるからだ。ただし、自宅で大学の授業を受けるという選択肢が与えられることで、学生はコストを削減できるメリットもある。

新型コロナウィルス感染症イノベーションを促進している。中西部の大学グループであるビッグテン・アカデミックアライアンスは、60万人に上る学生の多くに、グループ内の他大学のオンラインコースを受講する機会を提供している。教育の改善にデジタル技術を利用することには大きな可能性がある。劣悪な対面講義を世界トップクラスの大学のオンライン講義に置き換えることで、学生が最も欲している少人数制の授業に時間を割くことができるようになるかもしれない。

大学が何世紀にもわたり守ってきた伝統を誇りに思うのは当然だが、それが変化に抵抗するための口実として使われることがあまりにも多かった。新型コロナウィルス感染症の拡大により大学が自らのあり方を根底から問われることになれば、この災禍をきっかけにいくつかの良い変化が生まれるかもしれない。

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