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バイデン政権の誕生:後始末から民主主義の再生へ(2021年1月23日)

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今週のトップ記事の全文和訳をお届けします!

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Morning after in America
The outlook for America looks grim, but that could quickly change
What to expect from a Biden presidency

 

宴の後の米国:バイデン政権に期待すること

 

ジョー・バイデンは、少なくとも1987年に初めて大統領選に出馬してからずっと、ホワイトハウス入りを夢見てきた。その夢は今週実現したが、思い描いてきたものとは異なっていたに違いない。米国の新型コロナウイルスによる死者数の発表は40万人を超えた。バイデン政権の最初の100日が終わる頃には50万人を超えているかもしれない。何百万人もの米国人が失業している。1988年の大統領選挙の勝者が執務室から東欧の民主主義の勝利を眺めていたのに対し、バイデン大統領は米国内の民主主義の衰退と戦わなければならない。幸先の良いスタートとは言えないが、今後数ヶ月のうちに、ペンシルバニア通り1600番地からの眺めが劇的に改善する可能性はある。

 

米国の立て直しは新型コロナウイルスを制御することから始まる。国民のワクチン接種を進めることは、連邦政府、州政府、地方自治体の協力体制が試される手ごわい作戦である。連邦政府がポリオ撲滅のために実施したような巧妙な計画であれば、多くの命を救うことができる。しかし、たとえ計画が不完全であっても、春から夏にかけて大きな効果が現れるだろう。気温が上がり、屋外で過ごす時間が長くなることも有利に働く。新型コロナウイルスは爆発的に拡散する。しかし再生産数(1人の感染者から何人に感染するかを示す値)が1を下回るようになれば、感染者数は激減する。

 

そうなれば米国の景気回復に追い風が吹く。労働市場の落ち込みは、金融危機下でバイデン氏がオバマ政権の副大統領に就任した当時と同じ水準にあるが、今回の景気後退の状況は全く異なる。2020年の実質可処分所得は、連邦政府による巨額の景気刺激策もあり、おそらく過去20年間で最も速いペースで上昇した。銀行業界も健全に見える。そして経済的な影響も広範囲に及ぶものではなく、狭い空間に多くの人が集まらざるを得ないビジネスに従事する人々に集中している。しかし1年にわたり家に閉じこもっていた人々が街に出るようになれば、そうしたビジネスへの需要の多くは回復するだろう。

 

連邦政府が実質的にゼロコストで借り入れができることを利用して、バイデン政権は新たに1.9兆ドルの財政刺激策を計画している。パンデミックが発生してからの財政支援総額は危機以前のGDPの27%に達している。この支援策は上院を通過しない可能性があり、またすべてが本当に必要なのかも明らかではない。しかし、仮に金額が縮小されたとしても、ワクチン接種支援の積み増しや失業保険の延長、子どもの税額控除の拡大は大きな効果があるだろう。税額控除の拡大だけでも子どもの貧困を半減させることができる。

 

就任式にあたり25,000人の軍隊を動員せざるを得なかった政治的危機については、その原因がすぐに消えることはないだろう。自分以外の何物にも忠誠心を持たない人間に対する忠誠心を原則に組織化された共和党*、人種差別主義者との危険な関わり、代替的事実の台頭など、すべてはずっと前から起きていることである。しかし、FBIは国内テロの脅威を監視している。前大統領は今や2024年に再出馬する可能性のある一市民にすぎない(弾劾裁判の後に議会が出馬を禁止しないと仮定すればの話だが)。そしてバイデン大統領は就任式で法の支配と人種間の平等への明確な支持を宣言したが、今回それは陳腐でなく、まさしく重要な意味を持った。

 

この宣言が米国政治の緊張を緩和し、新たな可能性を開くだろう。議会の責務を果たそうとする共和党員と協力することで、バイデン政権はインフラや気候変動、新型コロナウイルスに関する法案を通過させることができる。教科書には、民主主義とは選挙によって折り合いをつけて対立を管理し問題解決を行うこと、と書かれている。連立を模索する大統領ならば、その精神の幾ばくかがワシントンで復活するかもしれない。**有権者こそ、四六時中の党派戦争よりもそれを望んでいるだろう。

 

実際に、そうした動きが必要である。米国は政府の積極的な支援が必要な課題に直面している。この1年間、パンデミック下での学校再開において米国は先進国中で最悪の状況にある。就学率の低下は、多くの子どもたちが教育を受けられずにいることを示唆している。アフリカ系米国人とヒスパニック系米国人の死亡率の高さは、健康が肌の色とリンクしていることを思い起こさせる。トランプ政権の4年間に機関は空洞化し、不正行為へのブレーキは弱体化した。トランプ氏の退任直前の行動は、何百人もの高齢の患者に利益目的で不必要な目の治療を行って有罪判決を受けた医師を恩赦することだった。また、トランプ政権の役人がロビイストとなることを禁じる自らの執行命令を撤回することだった。

 

過去4年間はまた、米国の外交上の問題も生み出した。海外の指導者たちは、トランプ政権を誕生させた勢力が将来また戻ってくる可能性を心の奥底で見据えており、米国の外交官によるいかなる合意も一時的なものになるリスクがある。また、バイデン政権の外交政策は、一連の著しく困難なトレードオフを迫られるだろう。2月5日に期限切れとなる戦略兵器削減条約の延長(新START条約)の署名にはロシア政府の協力が必要だが、ロシア政府は、ロシアで最も著名な野党政治家アレクセイ・ナワリヌイ氏を殺害しようとしたばかりか、つい最近には拘束している。また、バイデン政権は気候変動に関して中国の協力を必要としているが、中国は新疆ウイグル自治区ウイグル人に対し、前政権が「ジェノサイド(大量虐殺)」と呼んだ事態に関与している。

 

多くのことがうまく進まない可能性がある。上院共和党は、バイデン大統領が民主党だからという単純な理由で、すべてのことに反対するかもしれない。一方で民主党左派は、共和党と取引しようとしたという理由でバイデン大統領と対立するかもしれない。トランプ政権下では政治の駆け引きは単純だった。米国の問題を解決するというよりも党派的な争いを煽ることが中心だったからだ。現実に向き合うことははるかに難しい。現在のように取り組むべき問題が山積しているときはなおさらだ。

 

成功のチャンスを最大化するには、バイデン大統領は自らの強固で庶民的な中道路線を貫くべきである。今、その中道路線こそが求められている。そして西側同盟国は、一夜にして奇跡的な変化が起こると期待せず、辛抱強くあるべきだ。ホワイトハウスが自制心を取り戻すことは、長い旅の第一歩に過ぎない。***しかしそれこそ、米国の再生に必要なことである。

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私はThe Economistのこの記事から、トランプ前政権の「宴=失政」に対する痛烈な批判を感じ取りました。

 

党派間の争いを煽って国益でなく自らの利益を追求していたトランプ大統領から、

*The Republican Party that became organised around a principle of loyalty to a man who has no loyalty to anything apart from himself

 

 

中道・連立路線を通じて民主主義の再生を目指すバイデン大統領へ。

**With a president inclined to build a coalition, a little of that spirit might return to Washington.

 

それはホワイトハウスが自制心を取り戻すことなのだと。

***The return of restraint to the White House will be only the first step in a long journey

 

では次の記事も、どうぞお楽しみに。

 

 

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