#The Economistを読む

英エコノミスト(The Economist)の最新記事を日本語で共有します

21世紀はグリーンパワーの時代(2020年9月19日)

f:id:Simple333:20200920135733j:plain

The new energy order
Power in the 21st century

21世紀の新たなパワー

<全文和訳>

石油は20世紀の自動車、戦争、経済を支え、地政学の土台であった。今、世界はエネルギーショックの真っ只中にあり、それが新しい秩序へのシフトを加速させている。今年初めに発生し世界経済を揺るがした新型コロナウイルスの拡大により、石油の需要は20%以上落ち込み、価格は崩壊した。それ以降の経済回復は不安定な状況が続き、パンデミック以前への回帰は考えにくい。化石燃料の生産国は脆弱性への対応に迫られている。1928年からずっとダウ平均株価の構成銘柄であったエクソンモービルはその地位を失った。サウジアラビアなどの石油国は原油価格が1バレル70~80ドルでないと採算が取れないにもかかわらず、現在の価格はわずか40ドル台で推移している。

 

これまでにも石油需要の低迷はあったが、今回はそれと同じ類ではない。一般の人々や国家そして投資家が気候変動の問題に目を覚まし、クリーンエネルギー産業が勢いを増している。資本市場の動きが変わり、今年はクリーン電力株が45%上昇している。金利がゼロに近い状態で、政治家はグリーンインフラ計画を支持している。米国のジョー・バイデン民主党大統領候補は、米国経済の脱炭素化に2兆ドルを支出するとしている。欧州連合EU)は8,800億ドルの新型コロナウイルス関連の復興計画の30%を気候対策に充てており、ウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長は今週の一般教書演説で、今後10年間に温室効果ガスの排出量を1990年比で55%削減する意向を表明した 。

 

21世紀のエネルギーシステムは、石油の時代よりも健康に良く、政治的に安定しており、経済変動の影響を受けにくいというプラス面をもたらす。ただし移行には大きなリスクが伴う。無秩序に行われれば産油国の政治的・経済的な不安定さが増大し、グリーンなサプライチェーンの支配力が中国に偏る可能性がある。それよりも危険なのは、進行のスピードが遅すぎる事態に陥ることだ。

 

今日、化石燃料はエネルギー供給源の85%と圧倒的な割合を占めている。しかし、このシステムは汚染を伴う。発電は温室効果ガス排出量の3分の2を占め、化石燃料の燃焼による汚染で年間400万人以上が死亡し、その多くは新興国の大都市で発生している。また、石油は政治的な不安定さを生み出している。何十年もの間、ベネズエラサウジアラビアのような石油国家は他に経済発展の道を探ることなく、カネやえこひいきにまみれた政治を続けてきた。安定供給を確保するため、世界の大国はこれらの国々に影響力を持とうと、特に米国が約6万人の兵力を投入する中東地域で競い合ってきた。化石燃料は経済の不安定さの原因でもある。石油市場は一貫性のないカルテルの影響を幾度も受けている。世界の石油埋蔵量が特定地域に集中しているため、供給は地政学的な変動に対して脆弱である。1970年以降、6ヶ月間で30%以上の価格変動が62回も発生していても不思議ではない。

 

新しいエネルギーシステムが姿を現しつつある。大胆な行動を起こせば、太陽光発電風力発電などの再生可能エネルギーが供給量に占める割合は、現在の5%から2035年には25%、2050年には50%近くまで増える可能性がある。石油や石炭の使用量は減少し、よりクリーンな天然ガスが中心となるだろう。このような構造は最終的には大きな利益をもたらす。最も重要なのは、 エネルギーの脱炭素化により、大規模な干ばつ 、飢饉、洪水やそれに伴う大規模な住民移動といった気候変動のもたらす野放図な影響を回避できることだ。市場が成熟すれば、供給は地理的にも技術的にも多様化し、その結果、政治的な安定にもつながるはずである。産油国は自国の改革に取り組まねばならず、こうした国々の政府が国民への課税に軸足を移し始めれば、一部の国ではより民主化が進むだろう。かつて産油国の政治に干渉することでエネルギーの安全保障を探っていた石油消費国は、自国の電力産業の規制に目を向けるようになるだろう。また、21 世紀のシステムは今よりも経済的に変動しにくいものになる。電力価格は少数の大物が決めるのではなく、競争と段階的な効率化によって決定されることになるからだ。


しかし、より良いエネルギーシステムが出現したとしても、それへの移行において管理が行き届かないリスクが存在する。2 つのリスクが際立っている。まず、独裁的な中国が、主要部品の製造や新技術の開発で優位に立っていることを背景に、世界の電力システムに対して一時的に影響力を持つようになる可能性がある。現在、中国企業は世界の太陽電池モジュールの72%、リチウムイオン電池の69%、風力タービンの45%を生産している。また、コバルトやリチウムなどのクリーンエネルギーに欠かせない鉱物の精製も中国企業が多くを担っている。中国は石油国家ではなく「電力国家」になるかもしれない。この6ヶ月の間に中国は電気自動車のインフラと送電への投資を発表し、パキスタン原子力発電所のテストを行った。またコバルトの備蓄を検討している。

 

中国のパワーは他国の動きのスピードに左右される。ヨーロッパにはオルステッド社、エネル社、イベルドラ社といった風力・太陽光発電所の大手が存在し、世界中でプロジェクトを展開している。また欧州の企業は自社の排出量削減競争でリードしている。米国での進展は、シェールオイルとガスの台頭によって世界最大の石油生産国となったことと、脱炭素化対策に対する共和党の抵抗による影響を受けてきた。もし米国が気候変動問題に対して立ち上がり、炭素税導入や新しいインフラの導入等を進めれば、米国の資本市場、国立エネルギー研究所、大学などが推進力となって米国は非常に優れたグリーンパワーになるだろう。

 

もう一つの大きなリスクは、世界のGDPの8%を占め、9 億人近くの人口を抱える石油国家における移行である。石油需要が減少するにつれ、石油国家は市場シェアを激しく奪い合い、最も安価でクリーンな原油を提供する国が勝利することになる。これらの国々が経済的・政治的な改革を早急に推し進めるとしても、そのために必要な資金は先細りする可能性がある。今年第2四半期に、サウジアラビアの政府収入は49%減少したが、こうした苦境はこの先何十年も続く。

 

このような危険に直面すると、移行にもっと時間をかけることで影響を緩和しようという誘惑に駆られる。しかしそれは、気候変動に関連する別のさらに不安定な状況をもたらすことになる。移行のスピードを落とせば、現在の取り組みにより気温上昇を産業革命以前の2℃以内に抑えることはおろか、気候変動による環境、経済、政治への影響を抑えるために必要な1.5℃以内に抑えることもまったくおぼつかない。例えば、風力発電太陽光発電への投資額は年間約7,500億ドルが必要とされるが、これは現状の金額の3倍である。化石燃料を使用しない再生可能エネルギーへのシフトは加速させなければならないが、そうなれば、地政学的な混乱は深まる。新しいエネルギー秩序への移行は不可欠だが、それは同時に痛みをもたらすのだ。

 

***

英国The Economist(エコノミスト) 31%OFF | The Economist Newspaper Limited | 雑誌/定期購読の予約はFujisan