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オフィスの時代は終わったのか?(2020年9月12日)

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The future of work
Is the office finished?
The fight over the future of the workplace

 

オフィスの時代は終わったのか?
職場の将来をめぐる争い

<全文和訳>

ほとんどの人がオフィスというと毎日決まっていくところというイメージを抱くが、今やオフィスは急速に、経済的な不確実性と活発な議論の火種になりつつある。世界中で、労働者、上司、家主、政府がオフィスはもはや時代遅れなのかを問い、それぞれ全く異なる結論に達しようとしている。フランスではオフィスワーカーの約84%がオフィスに戻っているが、英国での割合は40%に満たない。ツイッター社のトップであるジャック・ドーシー氏は、同社の従業員は「永久に」在宅勤務可能であるとしているが、Netflixの創業者であるリード・ヘイスティングス氏は、在宅勤務は「マイナスの影響しかない」と言う。企業が逡巡する中で、世界全体で30兆ドル規模の商業用不動産市場はより深刻な不況の恐れに直面している。また、一部の労働者が通勤やプレタマンジェ(英国のファストフードチェーン)通いのない未来を無邪気に夢見る一方で、昇進や給与、雇用について不安を抱く人もいる。

この意見の相違は、新型コロナウイルス感染症をめぐってソーシャルディスタンスがどの程度有効なのか、またワクチンが普及するまでどのくらい時間がかかるのかといった不確実性を反映している。しかし、それだけではない。パンデミックはテクノロジーの大規模な導入の引き金となり、ホワイトカラーの仕事を変えることになったが、オフィスの多くが20世紀の遺物として存在していたことも明らかにしたのだ。今回のパンデミックは、長きにわたり手付かずのままであった技術的・社会的な実験を促すことになるだろう。それは、今まで通りでもなければ、オフィスの完全な終焉でもない。新たな時代は有望であると同時に、企業文化を始め様々なことに脅威をもたらす。国々は変化に抵抗するのではなく、時代遅れの雇用法を改正し、都市の中心部の再構築に着手する必要がある。

200年前、蒸気機関の発明によって労働者が工場に集まり、新たな機械の利用が進んだ。19世紀後半に巨大企業が出現すると、多くの労働者を管理する必要が生じた。管理者たちは計画会議を開き、稟議書や請求書などの書類を回してビジネスを運営するようになった。これらはすべて、スタッフが互いの近くにいることが前提であり、そこから車や電車で会社に通勤するというパターンが生まれた。

このシステムには常に複数の大きな問題点があり、そのうちのいくつかは時間の経過とともに悪化してきた。平均的な米国人労働者は通勤のために週に4時間以上をかけており、その手間とコストに手を焼いている。オフィスの騒音や堅苦しさを嫌う人もいれば、オフィス内での差別に苦しむ人もいる。オフィスワーカーたちは子育てとの両立に苦慮しており、共働きの家庭が増えるにつれこの問題は深刻化している。

こうした現状の打破に新たな技術をもっと活用できたはずだと思う向きもあるだろう。実際に、PDFが誕生したのは1991年であり、ネット通信コストは2000年代に大幅に下がり、リモートワークを可能にするZoomやSlackが誕生したのは10年近く前のことである。しかし、惰性によってオフィスは変革を逃れてきた。例えば、パンデミックの前にシェアオフィスの企業(問題を抱えたWeWork等)の世界市場シェアは5%にも満たなかった。ほとんどの企業は、クライアントの要望をまたず率先してリモートワークに切り替えたり、不動産資産やリースといったサンクコストを除却することに難色を示した。

新型コロナウイルス感染症の拡大は、この状況をひっくり返した。パンデミック前、在宅で勤務する米国人は3%に過ぎなかったが、現在は膨大な数の人々が在宅勤務を行っている。オフィスプリンターの代名詞であるXerox社でさえ、多くのスタッフが自宅で仕事をしている。多くの人がリモートワークをするようになると、強力なネットワーク効果が生まれ、新しい顧客が増えるごとにサービスはより便利になっていく。現在、Microsoft Teams、Zoom、Google Meet、Cisco Webexの合計ユーザー数は3億人以上である。リモートワークに対する形式的なハードルは吹き飛ばされた。民事裁判所もリモートで運営され、公証人はオンラインで参加している。銀行の中には、新規口座開設にあたり本人確認のための支店への来店義務をなくすところも現れた。

ワクチンの普及後、こうした変化はどの程度まで維持されるのだろうか。考えられる最良のガイドは、感染拡大の制御に成功している国を見ることだ。そうした国々では、オフィスは「オプション(任意)」化している。つまり、オフィスはあるが、そこへ出勤する頻度は少なくなっている。例えば、モルガン・スタンレーの調査によると、ドイツでは現在、オフィスワーカーの74%がオフィスに行くが、そのうち週5日出社しているのは半数だけである。こうした割合は、業界や都市によって異なるだろう。通勤が楽な場所では多くの人が通勤するが、通勤時間が長く通勤コストも高い大都市では出勤する人の数は少ないと思われる。

会社は、オフィスが第二の家ではなくハブとなるような、散発的な出社パターンに適応しなければならないだろう。Netflixヘイスティングス氏が危惧するように、時の経過とともに企業のソーシャルキャピタルは脆弱化し、創造性が低下し、ヒエラルキーがあいまいになり、チームスピリットが薄れていく危険性がある。この問題の解決策は、特定の時間帯にグループが集まって親交を深めたり情報交換をしたりすることで、よりターゲットを絞ったスタッフ間の交流を可能にすることだ。オンラインでのやりとりを「ゲーム化」して自発性を促す新技術が、いずれ退屈なZoomの世界に取って代わるかもしれない。こうしたことで企業文化の再構築を進めるとともに、企業は不動産の見直しを行う必要があるだろう。保守的な投資家は、大都市のオフィススペースのストックは少なくとも10%減少すると予想している。ただし、一般的な法人賃貸契約期間は短くても半年間であるため、これが実現するにはまだ時間がかかるだろう。

各国政府は、都心のカフェの大量閉店からニューヨークの地下鉄システムが直面している160億ドルの予算不足に至るまでの経済的なダメージを少しでも食い止めるべく、以前の状況を取り戻そうという誘惑に駆られるかもしれない。英国政府は労働者をオフィスに戻そうと躍起になっている。しかし、テクノロジーの変化に抵抗するよりも、それがもたらす効果に期待する方がはるかに良い。真っ先に取り組むべき優先事項は2つある。

第一に、膨大な雇用法体制を現代化することだ。ギグ(単発の雇用契約)経済がすでに、現在の法体制が時代遅れであることを示している。労働者の権利と責任に関する新たな難しい問題が浮上している。例えば、会社はリモートで働く従業員の生産性を評価するためモニタリングを実施できるのか?従業員が自宅で仕事中にケガをした場合、誰が責任を負うのか?もしホワイトカラーの労働者が特別待遇を得ているという認識が少しでも生まれれば、そうでない労働者の強い反発を招くことになるだろう。

第二は、都市の中心部に関する取り組みである。一世紀に渡り、都市の中心部は、回転いすと書類の山でいっぱいのオフィスが入居している高層ビルに支配されてきた。複雑な都市計画のルールを体系的に見直し、住居やレクリエーション施設を含む新しい用途を含め、ビルや地区の再開発を可能にする必要がある。もしかしてあなたも、今月あたりオフィスに戻るのかもしれない。席についてパソコンにログオンした後、自宅よろしくリラックスしすぎないようご注意を。

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