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コロナ禍の終わりが見えてきた(2021年7月3日)

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2021年7月3日号のトップ記事の私的和訳をお届けします。

 

After the disease
The long goodbye to covid-19
The pandemic is still far from over, but glimpses of its legacy are emerging

 

1年半にわたり、新型コロナウイルスは次から次へと国々を襲い続けている。やっと打ち勝ったと思うと、感染力のさらに強い新種のウイルスが登場する。しかし、ワクチンの接種回数が30億回を超えた今、コロナ後の生活が徐々に見え始めた。すでに2つのことがはっきりしている。パンデミックの最後の段階は長く苦しいものになることと、コロナ後の世界が一変することだ。

 

今週、エコノミスト誌は、この2つの現実を反映した「正常性指数」を発表した。この指数は、地球上の人口の76%を占める50カ国について、パンデミック前の平均値を100とし、フライト、交通、小売などを追跡したものである。現在のスコアは66で、2020年4月の約2倍である。

 

しかし、新型コロナウイルスはまだ多くの国で猛威を振るっている。この指数が最も低いマレーシアでは、1月と比較して6倍の死者数を記録しており、スコアは27にとどまる。その主な理由はワクチン接種が進んでいないことである。

 

死者が急増しているサハラ以南のアフリカでは、1回目の接種を終えた12歳以上の人口はわずか2.4%に過ぎない。ワクチン接種が進んでいる米国でも、ミシシッピ州アラバマ州では接種が完了している住民は3割程度である。世界の今年のワクチン製造数は約110億回分に達する予定であるが、これらのワクチンがすべて実際に接種されるまでには時間がかかり、また豊かな国がワクチンの囲い込みに走ればさらに時間を要するだろう。

 

ワクチン接種の遅れは新たな変異株の登場でさらに悪化している。インドで最初に発見されたデルタ株は、武漢で発生したウイルスの2〜3倍の感染力を持つ。急速な感染拡大により、接種率が3割に達している国でも、病床数や医療スタッフ(場合によっては酸素も)が急激にひっ迫する可能性がある。そして、変異株への感染はすでにワクチンを接種済の人の間でも拡大している。ほとんどの重い病気や死亡を防ぐというワクチンの効果を損なうような変異株はまだ発生していないが、今後はわからない。

 

いずれにせよ、ウイルス自体は生き延びたとしても、パンデミックはいずれ終わるという事実に変わりはない。すでにワクチン接種を完了した人や新たな治療が受けられる人にとっては、新型コロナウイルス感染症はすでに死に至る病ではなくなりつつある。デルタ株が主流となっている英国では現在、感染者の致死率は季節性インフルエンザと同様の0.1%程度であり、危険だが管理可能な病気である。変異株に応じてワクチンの改良が必要な場合も、それに長い時間はかからないだろう。

 

しかし、豊かな国でワクチン接種や治療が行き渡るようになる一方で、貧しい国でそれらの不足により死者が増えれば、怒りは増幅し、豊かな国との間に摩擦が生じる。そして渡航の禁止は二つの世界を隔て続けることになる。

 

航空機での往来はいつか再開するが、その他の行動の変化は続き、中には深刻な影響を与えるものもあるだろう。米国の場合、3月に景気指数がパンデミック前の水準を超えたが、エコノミストの正常性指数は73にとどまる。その理由の一つは、大都市から雑踏が消え、在宅勤務の人が増えたことだ。

 

今のところ、COVID-19による社会的変化は過去のパンデミックのパターンを踏襲しているように見える。イエール大学のニコラス・クリスタキス氏は3つの変化を指摘している。集団的な脅威が国家権力の増大を促し、日常生活の大きな変化が意味の探求をもたらし、死を身近に意識した人々はそれを乗り越えた後に大胆になる、というものだ。この3つはそれぞれ、社会に独特の影響をおよぼすだろう。

 

豊かな国の人々がロックダウンで巣ごもりを強いられたとき、国家も自らのバリケードを張り巡らせた。パンデミックを通じて、政府は主たる情報源であり、ルールの設定者であり、資金の提供者であり、現在はワクチンの提供者である。豊かな国の政府は、失われた生産高1ドルにつき90セントをカバーした。政治が国民の自由を制限すると、意外にも国民のほとんどはそれを喜んで受け入れた。

 

ロックダウンが「実施に値するものだった」かどうかについての学術的な議論が活発に行われている。しかし、パンデミックがもたらした「大きな政府」はすでに姿を現している。バイデン政権の支出計画を見れば、不平等、経済成長の鈍化、サプライチェーンの安全性など、あらゆる問題について、より大きな政府のより積極的な介入が求められているように見える。

 

また、新たな意味の探求を示唆する証拠もある。右派、左派を問わず、アイデンティティ・ポリティクスへの移行が進んでいるが、それ以上の深い変化も起こっている。Pew社による世論調査では、イタリアとオランダで約5人に1人がパンデミックによって自国の宗教心が高まったと回答し、スペインとカナダで約5人に2人が家族の絆が強くなったと回答している。

 

余暇の過ごし方にも影響が見られる。人々の自由時間は15%増加した。英国では、若い女性の読書時間が50%増加した。出版社には大量の原稿が持ち込まれているという。このような変化は一時的なものもあり、メディア企業はこうした「ブームの反動」を懸念しているが、定着する変化もあるだろう。

 

例えば、人々はパンデミック以前のような仕事に忙殺される生活から脱却するかもしれない。ひっ迫した労働市場はその追い風になる可能性がある。英国では、2020年に医学部への入学希望者が21%増加した。米国では、新規起業数が2004年の記録開始以降で最高となっている。複数の調査結果によると、在宅で仕事ができるアメリカ人の3人に1人は週5日の在宅勤務を希望している。一方で、オフィス勤務への復帰を命令したり奨励する会社もある。

 

リスクへの欲求が回復するかどうかはまだわからない。原則的には、致死的な病気から生還した人は自らを幸運な人間だと楽観視する。一世紀前のスペイン風邪の収束後の数年間は、性産業、芸術、スピードへの熱狂など様々な分野で興奮への渇望があらわになった。今回のパンデミックからは、宇宙旅行遺伝子工学人工知能、拡張現実などで新たなフロンティアが生まれる可能性がある。

 

新型コロナウイルスの登場前から、デジタル革命、気候変動、中国の台頭などにより、第二次世界大戦後の欧米主導の秩序は終焉を迎えつつあった。今回のパンデミックはその変革のスピードを早めることになるだろう。

***

 

Normalcy index(正常性指数)をはじき出すあたり、さすが英エコノミスト誌ですね。以下のリンクに詳しい説明がありますよ。ちなみに米国の73に対して、日本のスコアは60をちょっと超えたくらいでした:

Our normalcy index shows life is halfway back to pre-covid norms | The Economist

 

ではまた。

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