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東南アジア、米中対立の重要な争点に(2021年2月27日)

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今週のトップ記事の全文和訳をお届けします。

英語原文を聞きたい方は、下の音声ファイルをクリックしてください!

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The battle for China’s backyard
The rivalry between America and China will hinge on South-East Asia
China’s advantages in the tussle are not as big as they seem

 

東南アジア、米中対立の重要な争点に

中国の影響力はまだ見かけほど浸透していない

 

アメリカとソ連は45年に及ぶ確執の間、世界中で代理戦争を繰り広げた。冷戦が最も激しかったのはヨーロッパで、ソビエト連邦は連邦の崩壊を、アメリカは同盟国の弱腰を常に心配していた。中国とアメリカの戦いは、幸いにもそれとは違う。双方の武装勢力が前線で互いに睨み合っているわけではない(ただし、台湾と北朝鮮では、それぞれ何十年にもわたり同一民族間での緊張した対立関係が続いている)。それでも、二つの大国間のせめぎ合いの中心となっている地域がある。それが東南アジアだ。この地域には今のところ明らかな前線と呼べるものはないが、それゆえに対立はより複雑化している。

 

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東南アジアの国々はすでにアメリカと中国を対極として見ており、国内の意見対立を招いている。例えば、ミャンマーの最近の軍事クーデターに抗議する人々は、将軍を支持している中国を批判し、アメリカの介入を懇願するプラカードを掲げている。各国の政府はどちらか一方を選ぶプレッシャーを感じている。2016年、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は「アメリカからの離脱」を声高に宣言し、代わりに中国への忠誠を誓った。南シナ海のほぼすべてが領海内にあると主張する中国と、それを認めないアメリカは、中国が主導権を握ろうとする地域の主要な枠組みである東南アジア諸国連合ASEAN)をめぐって激しい論争を巻き起こしている。

 

この綱引きは、二つの理由でさらに激化するだろう。第一に、東南アジアは中国にとって戦略的に極めて重要である。東南アジアは中国の玄関口に位置し、中国が石油やその他の原材料を輸入し完成品の輸出を行う貿易ルートを形成する。中国の東側がアメリカの強力な同盟国である日本、韓国、台湾に囲まれているのに対し、東南アジアはそれほど敵対しておらず、商業的にも軍事的にもインド洋と太平洋の両方へのアクセスを提供する。東南アジア屈指の強国になることによってのみ、中国は閉じ込めの恐怖から解放されるのである。

 

しかし、東南アジアは、単なる地理的な中継地ではない。東南アジアをめぐる競争が激化する第二の理由は、東南アジア自体が世界の中で重要性を増しているからである。東南アジアの人口は7億人であり、欧州連合ラテンアメリカ、中東よりも多い。経済規模は、単一の国として見た場合、物価調整後で中国、アメリカ、インドに次ぐ世界第4位である。そして、この経済規模は急速に成長している。インドネシアとマレーシアの成長率は10年間で5~6%、フィリピンとベトナムは同6~7%である。ミャンマーカンボジアなどのより貧しい国々の経済成長率はさらに高い。中国に対するヘッジを行う投資家にとって、東南アジアは製造業のハブとして一つの選択肢となっている。また、東南アジアの消費者は今や、この成長市場を構成するのに十分な購買力を持つ。商業的にも、地政学的にも、東南アジアはまさに「金の卵」なのである。

 

この二大国間の競争では、中国が有利と見られている。中国はこの地域最大の貿易相手国であり、アメリカよりも多くの投資を行っている。少なくとも東南アジアの1カ国、カンボジアは事実上、すでに中国の従属国である。そして、超大国同士の多くの争いの中で、公然とアメリカに味方して中国の怒りを買おうなどとする国は一つもない。

しかし、東南アジアと中国との関係は一見近いように見えるが、問題もはらんでいる。中国の投資額は確かに巨額であるが、その反動もある。中国企業はしばしば汚職や環境破壊で非難の的となる。また多くの中国企業は自ら連れてきた中国人労働者を雇用し、現地の雇用拡大に最大限貢献していない。そして、中国には、気に入らない国を罰するのに貿易と投資の制限を行うという憂慮すべき慣習がある。

 

中国はまた、軍事力の誇示により近隣諸国を不安に陥れている。南シナ海での攻勢や、近海で漁業や石油掘削を行う東南アジアの船舶への嫌がらせは、ベトナムからインドネシアに至るこの地域のほぼすべての国との摩擦を生じさせている。中国はまた、ミャンマーの民主政府に対峙する反政府勢力との関係を維持しており、過去にはこの地域全体でゲリラの支援を行ってきた。

 

このような中国の強硬姿勢は、悲しいかな、伝統的な感情に加えてさらに、東南アジアの多くの国々で中国への反感を高めている。ベトナムでは反中国の暴動が頻発している。世界で最もイスラム教人口の多い国であるインドネシアでは、中国人の不法移民から中国内の少数派イスラム教徒に対する扱いに至るまで、中国に対してあらゆることに抗議の声が上がっている。共産党独裁政権下にあり、大衆の不満などほとんど聞かれない小国ラオスでさえも、中国の支配に対する不満は日常的に囁かれている。東南アジアの指導者たちは、経済的な影響を恐れて公然と中国を批判することはないかもしれないが、一方では自国民の怒りを買うのを恐れ、中国にあまりに近づきすぎることも警戒している。

 

このように、東南アジアにおける中国の覇権は盤石とは程遠い。東南アジアの政府は、富める国である中国との貿易や投資の関係を放棄することは望んでいない。しかし、これらの国々の望みはアメリカの望みと一致している。すなわち平和と安定、そしてルールに基く秩序であり、これらは中国からは得られないものだ。他の中堅国と同様に、東南アジアの主要国は、自らの賭けをヘッジし、時の巨人からどのような恩恵を受けられるかを見極めたいと考えている。

 

東南アジアが中国に操られないようにするためには、アメリカは、東南アジアに対して選択肢をオープンにしておくことを奨励し、同時に中国の影響力に対抗する方策を構築すべきである。その一つは、地域統合の強化である。現状では、東南アジア諸国間の貿易や投資は、中国との取引を上回る。もう一つは、一つのASEANとして、日本や韓国などのアジア諸国との関係を強化することである。そして何よりもアメリカは、東南アジア諸国に対して、アメリカか中国かの二者択一を迫ろうとしてはならない。なぜならそれこそが、間違いなく東南アジアの反発を招く唯一の愚策だからだ。

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今週号The Economistの表紙にもなった、この記事のイラストにもご注目!

中国の裏庭として描かれた東南アジア。中国を象徴する色、赤のペンキで塗り尽くされているようで、まだまだ作業は道半ばであることが表現されています。

米中という超大国のはざまで揺れ動く、成長市場の東南アジアの将来に注目ですね!

 

 

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