#The Economistを読む

英エコノミスト(The Economist)の最新記事を日本語で共有します

米国の黒人上流社会とBlack Lives Matter(2020年8月21日)

f:id:Simple333:20200822085812j:plain

Our kind of people
America’s black upper class and Black Lives Matter
The United States is also home to the biggest group of highly successful black folk in the world

米国の黒人上流社会とBlack Lives Matter

 

<全文和訳>

ローレンス・オーティス・グラハムは、昨年夏にマーサズ・ヴィンヤード島でカマラ・ハリスに初めて会った場所を思い起こしていた。それは映画監督のスパイク・リーの別荘であった。つい最近、民主党ナンバー2となったカマラ・ハリスのために、リーはそこで参加費用1人1,500ドルの資金集めパーティを行ったのだ。「カマラは私たちにとっての新たなバラク・オバマだ」と、ニューヨーク出身の作家であり財産弁護士でもあるグラハムは興奮気味に語る。グラハムが言う「私たち」とは、アフリカ系米国人、特にアフリカ系米国人の上流社会の中でも頂点に位置する人々のことである。

グラハムはそれを承知している。彼は1999年に出版した「Our Kind of People」で、米国で最も裕福な黒人社会の習慣、クラブ、ライフスタイルについて内側から語り、その名を知られるようになった。この本は現在37刷であるが、出版された当初は物議を醸した。1870年代以降、黒人の富裕層がどのように繁栄してきたかについて無知の白人もいた。「黒人に社会経済的な階級があると考えたことがない人も多い」とグラハムは言う。黒人富裕層の一角として公に名前を挙げられたことに憤慨した人もいれば、逆に挙げられなかったことに激怒した人もいた。一方でそうした人々に怒りをぶつけた非富裕層の黒人読者もいた。

概して黒人の米国人は、最も裕福な階層を含め、豊かさのレベルは白人よりも著しく低いままにとどまっている。米国のシンクタンクであるブルッキングス研究所の2月の報告書によると、黒人の所得上位10%の資産の中央値は343,160ドルであるが、白人の所得上位10%の場合はその5倍以上の1,789,300ドルであった。連邦準備制度理事会の調査によると、黒人家庭の約2%が100万ドル以上の資産を持っているが、白人家庭の場合はその割合が15%を上回る。

しかし、アフリカ系米国人のエリート社会は巨大ではないにせよ、影響力を持っている。グラハムの本の内容は近々、連続テレビ番組になる予定だ。富裕層の頂点に立つ黒人一族は、長い間、招待制のクラブを持ち、そこで社交を行い、職業上のネットワークを作り、子どもの社交界デビューの舞踏会を行ってきた。1938年に設立されたジャック&ジル・オブ・アメリカはその代表例で、247の支部に4万人の会員を擁し、ビジネス、社会、政治の分野でのリーダー育成に注力している。

ジャック&ジル・オブ・アメリカの伝統はしっかりと維持されており、今週、第44回全国大会が4日間にわたりバーチャルで盛大に開催された。このクラブは明らかに、最も成功した人たちのためのものである。ダニエル・ブラウン会長は「エリート」という言葉を嫌うが、会員の子どもの98%が大学に通っているという。(これは重要な点である:高等教育進学率の上昇は、過去半世紀にわたり、ほとんどの黒人労働者の収入が一貫して減少しているにもかかわらず、高給取りのアフリカ系米国人の収入が常に上昇している理由を最もよく説明している。)会員のほとんどは職業的に成功している。「会員はどこでもほとんどトップの地位にある」と同会長は言う。

富裕層のクラブがどこもそうであるように、ジャック&ジル・オブ・アメリカも多くの慈善活動を行っている。ブラウン会長によると、今年は247名の大学費用を援助した。また、国民の義務や投票の重要性、健全な金融教育の必要性を推進している。それらはすべて価値ある活動であるが、ブラック・ライブズ・マター(BLM)の活動家たちが時折、騒動を起こすのとは対照的に、地味に見えてしまうこともある。社交界デビューの舞踏会では、シンデレラのような白いドレスを着た控えめなティーンエイジャーたちが、真珠をまとった年配の女性たちに見守られながら丁寧に膝をつきお辞儀をしている。

しかし、誰もが会員時代を懐かしみ話の種にするわけではない。エリートグループに属していることを自慢する政治家はほとんどいない。ニュージャージー州上院議員であるコーリー・ブッカーは若かりし頃の「ジャック&ジル」での話をすることはほとんどない。カマラ・ハリスは女性会員で構成される同様のエリートグループであるザ・リンクスのメンバーであるが、選挙演説でそれを語ることはないだろう。しかし、最も急進的な指導者やその子どもたち(マルコムXやリーを含む)の多くが、ジャック&ジルや類似の団体に所属していたことがある。

アフリカ系米国人エリートたちは、新型コロナウィルスの世界的大流行や、警察による暴行事件、そしてここ数ヶ月のBLM抗議活動にどう対応しているのだろうか?ブラウン会長はBLMを「新しい名前がついた、公民権運動の象徴」だとして、抗議者たちが「警戒心」を強め、これまで無視されていた問題について白人を含む一般の人々の関心を高めたことを評価する。ただし、BLMはあくまでも団体やクラブ、社交界有権者登録団体や慈善団体といった「素晴らしい多くの活動形態」の一つに過ぎず「いろんな人がいろんな活動をする必要がある」のだと言う。

国際的なインフラ投資ファンドを運営するシカゴの大富豪レリー・ノックスと、妻で同じくシカゴで広告代理店を経営するファリッサ・ノックスも同じような見方をしている。現在進行中のBLMの「白人至上主義」をめぐる議論は歓迎すべきことだ。「私はBLM活動を支持する。議論されるべきテーマだ」とファリッサ・ノックスは言う。しかし、ノックス夫妻は個人的な資金と時間を、国勢調査票への記入や陪審員の義務履行、そして何より有権者登録の重要性について黒人住民を教育する地元の団体に投資したいと考えている。構造的な変化は、自分たちが経営する企業を含む組織や司法改革、そして新しい人々を政治の世界に送り込むことからもたらされると考えているからだ。街頭での怒りの声はすぐに消えてしまうかもしれない。

しかし、最も裕福な人々でさえ、警察による暴行や嫌がらせに対する怒りを覚え、街頭に立つ抗議者に味方している。レリー・ノックスは、アフリカ系米国人の男性の誰にも起こり得る公共の場での辱めについて率直に語る。彼はかつて、郡警察委員会の委員長を務めていたにもかかわらず、娘を学校に迎えに行く途中に家の近くで私服警官に呼び止められ、追い回されたという。彼によると、裕福な黒人家庭は、ほとんどが白人家庭の居住区に引っ越すとすぐに、トラブルを回避するために自らの家族の写真を持って地元の警察署にあいさつに行くのだという。「私たちは積極的に行動しなければならない。こんなことをするのは全くもって屈辱的だが、そうしないとどうなるか、嫌というほど学んできた。そしてまだ、こんな状況は続いている。」

 

***

 

英国The Economist(エコノミスト) 31%OFF | The Economist Newspaper Limited | 雑誌/定期購読の予約はFujisan