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新型コロナウィルスが大学にもたらす痛みと改革(2020年8月8日)

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The absent student
Covid-19 will be painful for universities, but also bring change
They need to rethink how and what they teach

新型コロナウィルスが大学にもたらす痛みと改革

 


The Economist August 8, 2020: Leaders: The absent student

 

<全文和訳>

通常であれば、夏の終わり頃になると新興国の空港は、豊かな世界で新たに大学生活を始めるため飛び立とうとする緊張した面持ちの18歳たちで溢れかえる。毎年500万人以上を数える留学生の旅立ちは、グローバリゼーションの賜物と言える。学生たちは世界を目の当たりにし、大学は新たに高額の学費を払う留学生を獲得する。しかし、飛行機は離陸せず国境が閉鎖されている今、この風物詩もまた新たなパンデミックの犠牲者になろうとしている。

新型コロナウィルス感染症は学生たちに不都合をもたらした。多くの学生は、都合の悪い時間にスタートするオンライン講義に親がいる居間から出席するか、事態が落ち着くまで大学に戻れないかのどちらかを迫られている。大学はもっと大きな困難に直面している。今後、留学生からの莫大な収益をまるまる失うことになるだけでなく、キャンパスで感染が拡大するのを防ぐためにこれまでの運営方法を変えなければならない。

しかし、この災いが改善をもたらす可能性もある。長年にわたり、政府の補助金と入学需要の拡大を盾に、大学は学生と社会の両方のためになる変化に抵抗してきた。しかし、大学改革はもはや待ったなしの状況に置かれたといえる。

高等教育のブームが訪れている。1995年以降、良質な教育機関で学位を取得することが重要だとの考えが豊かな世界から新興国へと広まるにつれ、高等教育を受ける若者の割合は16%から 38%へと増加した。その結果、英語圏の先進国の至る所で立派なキャンパスが目立つようになり、名の知られた大学であるほど、新興国からの希望に燃える留学生を引き寄せて財政的に潤っている。

しかし、先行きは暗い。中国は欧米の大学に高額の学費を払う留学生を送り込んできたが、欧米と中国の関係は悪化している。軍隊と関係のある学生は米国から追放されることになっている。

政府も大学に冷たくなっている。教育の系列に沿って政治が分断される時代にあって、大学は一部の政治家を説得するのに苦労している。トランプ大統領は大学を「教育ではなく急進的左翼者への洗脳を行う場所」と揶揄している。共和党有権者の約59%が大学に否定的な見方をしているが、民主党有権者の場合は18%だ。英国では、ブレグジット(英国の欧州連合離脱)に対する大学の反対運動が盛んだが、米国、オーストラリア、英国では高等教育の4分の1から半分が学生ローンや補助金の形での国庫負担であることを考えると、こうした動きは政府の大学支援意欲に水を差しかねない。

政治家の間にみられる懐疑的な意見は感情論のみではない。政府が高等教育に資金を投じるのは、人的資本を増やすことで生産性を高めるためだ。しかし、大学入学者数が増える一方で、先進国の生産性の伸びは低下している。多くの政治家は、大学が適切な科目を教えておらず、労働市場で必要とされる以上の大卒者を生み出していると考えている。国家が手を引き始めているのも不思議ではない。米国では大学への政府支出はここ数年横ばいだ。オーストラリアでは文系コースの学費は倍になるが、政府が成長に役立つと考える科目の受講費は下がる見込みだ。

学生にとっての大学のメリットにも疑問が生じている。大卒のプレミアムは全体の平均としてみれば金銭的な対価に見合うだけの価値はあるが、すべての人に当てはまるわけではない。英国の財政研究所(IFS)は、大卒者の5分の1は大学に行かなかった方が経済的に恵まれていたとする計算を発表している。米国では、10人に4人が大学入学から6年経っても卒業しておらず、また大卒者の賃金プレミアムは縮小している。世界全体では大学入学者数は増加を続けているが、米国では2010年から2018年の間に8%減少した。

そして新型コロナウィルス感染症の世界的な流行が起こった。景気後退期は雇用不安から資格を求める人が増えるため高等教育の需要は伸びる傾向があるが、それでも大学の収入は低下するとみられる。政府のルールが学生の意欲を削ぐこともあるだろう。先月、トランプ政権は、授業がオンラインに移行した場合は新たな外国人学生の入国を認めないと発表した。オーストラリアを代表する4つの大学(シドニー大、メルボルン大、UNSW、モナシュ大)は収入の3分の1が留学生頼みだ。IFSは、英国の大学が被る損失額は年間収入の4分の1を上回ると予想している。

新型コロナウィルス感染症によるダメージは、少なくとも短期的には、大学がこれまで以上に政府への依存度を高めることを意味している。IFSによると、英国の13の大学が破綻の危機にある。政府は大学を支援すべきであるが、良い教育や研究を実施したり地域社会に利益をもたらす大学を優遇し、それらに当てはまらない大学は淘汰されるべきである。

生き残った大学はパンデミックから学ばなければならない。これまでほとんどの大学、特にその国のトップに位置する大学は、学部課程をオンラインで提供することに抵抗を示してきた。これは、遠隔教育が良くないということではなく(昨年は大学院生向けの講義の3分の1が完全にオンラインだった)、3年または4年の学部教育はキャンパスで受けるものだという考えがあったためだ。大学入学の需要が非常に旺盛であったため、大学はこれまで変化の必要に迫られなかった。

しかし今、その変化の波が避けられないものとなっている。デビッドソン・カレッジのカレッジ・クライシス・イニシアチブによると、来期もほぼまたは完全に対面で講義を実施するとした米国の大学は4分の1未満であった。この状況が続けば、大学入学の需要は減ることになる。多くの学生にとって、大学に行くのは将来の収入を増やすためだけではなく、親元を離れて友人を作り、パートナーを見つけるためでもあるからだ。ただし、自宅で大学の授業を受けるという選択肢が与えられることで、学生はコストを削減できるメリットもある。

新型コロナウィルス感染症イノベーションを促進している。中西部の大学グループであるビッグテン・アカデミックアライアンスは、60万人に上る学生の多くに、グループ内の他大学のオンラインコースを受講する機会を提供している。教育の改善にデジタル技術を利用することには大きな可能性がある。劣悪な対面講義を世界トップクラスの大学のオンライン講義に置き換えることで、学生が最も欲している少人数制の授業に時間を割くことができるようになるかもしれない。

大学が何世紀にもわたり守ってきた伝統を誇りに思うのは当然だが、それが変化に抵抗するための口実として使われることがあまりにも多かった。新型コロナウィルス感染症の拡大により大学が自らのあり方を根底から問われることになれば、この災禍をきっかけにいくつかの良い変化が生まれるかもしれない。

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