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ウォール街で新たな金融革命、始まる(2021年2月6日)

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今週のトップ記事の全文和訳をお届けします。

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Global finance
The real revolution on Wall Street
High tech meets high finance

 

ウォール街の真の革命
ハイテクがハイファイナンス(巨大金融)に出会うとき

 

ウォール街での騒動が想定外の展開を見せており、Netflixがそれらを題材にしたドラマを計画していると言われている。ならばその筋書きはどうあるべきか?一つは、政治の世界と同様に、反体制派の運動が巨大金融の世界に混乱を引き起こすというストーリーだ。もう一つは、株価の大幅な変動やオンライントレーダーの台頭、証券会社の資金ひっ迫などが、高値圏の市場が暴落の危機に瀕していることを示唆するというものだ。しかしどちらも、実際に起こっていることを覆い隠している。情報技術が、取引を自由にし、情報の流れを変え、新たなビジネスモデルを媒介し、市場の仕組みを変えている。そして、ここ数週間の騒動にもかかわらず、このことは長期的には大きな利益をもたらすことを約束している。

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もちろん、脚本家はその筋書きには乗らないだろう。彼らが注目するのは、投稿サイトReddit上の投資フォーラムであるWallStreetBetsの800万人のフォロワーたちであり、これらの人々は新たな金融冒険主義と言えるものを発明した。これを群集(swarm)トレードと呼ぶことにする。群衆トレーダーたちは結集して1月下旬に低迷する企業の株価を競り上げた。これにより、株価の下落を読んでいたヘッジファンドが巨額の損失を出し、ボラティリティが上昇した場合に担保の提供が義務付けられているオンライン・ブローカーの資金を圧迫した。1月28日以降、最も知られるネット証券会社ロビンフッド(Robinhood)は、自身の再建のために34億ドルを調達した。

 

群衆は次へ進んだようである。今週、一部の急騰株の価格は下落し、銀が急騰した。一方、多くの市場では、通常のルールが中断されたままだ。昨年、300社近くのSPAC(特別買収目的会社)が上場し、IPO(新規株式公開)の手間をかけることなく800億ドル以上の資金を調達している。テスラは米国で5番目に価値の高い企業となった。非主流から主流に躍り出たビットコイン企業価値は6,800億ドルに達している。株式の取引高は少なくとも10年間で最高となり、一部のデリバティブの取引高は爆発的に増加している。

 

その理由の一つは、政府の景気対策によってリスクの高い債務が増加していることにある。銀行には資金が有り余っている。JPモルガン・チェースの資金はパンデミックで5,800億ドルも増え、今や預金者は見向きもされない。そんな中、ロックダウン中に北京語を学んだりトルストイを読んだりして過ごす代わりに、景気対策で受け取った小切手を元手にデイトレードに励む人がいる。マニアのブームは警戒すべきものであるが、今日の価格を支える理由になっている。金利がこれほどまで低いと、他の資産が相対的に魅力を増す。5年物国債の実質利回りと比較すると、株価は2000年の暴落前よりも安くなっている。

 

しかし、このことは、金融の根本的な変化を反映している。ここ数十年の間に、株式の取引コストはほぼゼロにまで低下した。最初に恩恵を受けたのは定量的手法を用いるクオンティテーティブファンドやBlackRockなどの大手資産運用会社であった。しかし今では個人投資家もその恩恵にあずかるようになり、1月には全取引の4分の1を個人投資家が占めた。同時に、市場の生命線である情報の流れが分散化しつつある。以前は、企業や経済に関するニュースはインサイダー取引法や市場操作法によって管理されている報告書や会議体から発信されていた。しかし今では、デジタル機器とひまな時間がある人ならすぐに、ウェブサイトのスクレイピング、業界センサーの追跡、ソーシャルメディア上のチャットのモニタリングなどから得られる膨大なデータを入手できる。そして、新しいビジネスモデルがウォール街を駆け抜けている。カリフォルニア発の技術プラットフォームであるロビンフッドは、シカゴのブローカーであるCitadelを通じて取引を実行する。ロビンフッドフェイスブック同様、ユーザーの手数料は無料である。その代わりにロビンフッドはユーザーの取引情報をブローカーに販売し収益を上げている。

 

市場の騒乱は決して一過性ではなく、今後はますます激しくなるだろう。コンピュータは流動性の低い資産のバスケットを集め、アルゴリズムを使って類似する別の資産の価格を決定し、簡単に取引できる資産の世界を拡大することができる。流動性のあるETFを通じて取引される債券の割合が急増している背景にはJane Streetのような新種のマーケットメーカーの存在がある。Zillow のような競合他社は住宅販売を迅速かつ安価にしようとしており、商業用不動産とプライベートエクイティ株式にも近く同様の仕組みが誕生する可能性がある。

 

理論上、こうしたデジタル化には大きな期待が寄せられている。より多くの人々が市場に安価にアクセスし、より広範な資産の所有に直接関与し、その運営方法に対し投票権を持つようになるだろう。また、今日の非流動性資産の資本コストは低下する。そして投資家は希望通りのリスクテイクを選択することが容易になるだろう。

 

しかし、金融の進歩はしばしば大きな混乱を伴う。2007-09年のストラクチャード・クレジット・ブームがそうであったように、イノベーションがまずは危機を引き起こす可能性がある。ソーシャルメディア誤報を広めてしまうことも懸念される。ここ数週間の価格上昇を裏付けるものを見出すのは難しい。個人投資家のデータを大量に蓄積している強力な企業がそれらを悪用するのを懸念する向きもある。ロビンフッドを巡る騒動で、すでに政治家は右派・左派ともに、個人投資家の損失や資産価格の設定の誤り、また投資家が資産から資産へと殺到し市場インフラが圧倒されることによる金融の安定性への脅威について問題視している。驚くべきことに、技術的に洗練された個人投資家が支配する唯一の大規模な株式市場は中国である。中国政府は検閲を行い、価格や行動を様々にコントロールすることで、問題の発生に蓋をしようとしている。

 

ありがたいことに、米国ではそのようなコントロールが行われることはないが、規制当局の統制手法については更新する必要がある。素人でもプロでも、たとえ政治家からの同情を集めたとしても、損失を被ることに変わりはないことを明確にしなければならない。オンラインの政治の世界では、直接的なコストがかからないことから非合理的性がまかり通っている。対照的に、市場では損失は規律として機能する。今日最大のバブル資産が崩壊した場合、そのツケはおそらく2兆ドルに上るだろう。それは痛手には違いないが、44兆円相当の株式市場では壊滅的な打撃にはならない。

 

インサイダー取引や市場操作のルールも、新しい情報の流れに対応するために更新する必要がある。愚かさ、貪欲さ、闘争心はすべて完全に許容される。しかし、誤報の拡散を含む欺きは許容されない。価格に影響するデータは広く利用可能な状態にしておく必要がある。そして、決済システムも改修されなければならない。米国での証券取引の決済期間は2日であり、このタイムラグが現金不足につながる可能性がある。より広範囲の資産についてより速い取引に対応できるようにし、システムを暴落に耐えうるものにする必要がある。Netflixのドラマでは、ウォール街の邪悪なプロを相手に、ハンドルネームRoaring Kittyのようなデイトレーディングのヒーローが登場することは間違いないだろう。しかしドラマの世界の外では、真の金融革命において勝利するには、はるかに強大なキャストが必要である。

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今週号The Economistの表紙にもなった、この記事のイラストにもご注目!

荒々しい雄牛はウォール街のブル(雄牛)マーケット(強気相場)を、その背に乗る人のマスク代わりの赤いバンダナは、雄牛をさらに煽る赤旗を示しています。

そして雄牛の足元はウォール街の石畳ではなく、個人投資家たちが売り買い注文をするパソコンのキーボードになっていますね!

 

 

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