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英エコノミスト(The Economist)の最新記事を日本語で紹介しつつ、日々の気づきを徒然につづります

Weekly edition:表紙づくりのウラ話(2020年5月23日号)

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The Economistの定期購読者には、毎週初めにこんな↑↑↑タイトルでメールが送られてきて、発売されたばかりの最新号の表紙デザインに関するウラ話が公開されています。

 

表紙デザイナーを囲んで編集長とスタッフ一同が毎回、あ~でもない、こ~でもない、と知恵を絞っているのですが、今回は、ここのところずっと続いていた新型コロナウイルス関連のテーマを変えるということで、特に慎重に検討を重ねた様子が伝わってきます。

 

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今回はこの表紙デザインの編集部ウラ話!

***

(和訳)


今週の表紙には拍手喝采を送りたい気分です。ここまで12週間連続で、パンデミックやその直接的な影響に関することが表紙のテーマになってきましたが、ようやくそこから抜け出せたのです。今週号の表紙では、気候変動に対する世界的な取り組みの必要性を訴えました。コロナ禍の状況は同時に、経済の脱炭素化に向けてこれまでにない機会を提供しています。世界はこのチャンスを逃すべきではありません。


パンデミックのようにすべてを巻き込む大きな問題に直面しているとき、テーマを簡単に変えることはできません。それはまるで家族の誰かを亡くしたときに政治の話を持ち出すような、無礼で場違いな印象を与えるからです。今週の表紙づくりの課題は、テーマの転換をいかに自然に受け入れてもらえるようにするかでした。


カバーデザイナーが筆を持つ前に、すでに「Seize the moment(チャンスをつかめ)」というタイトルが浮上していました。これは、パンデミックがもたらしたきっかけに対して行動を起こすことを呼びかけるものです。月曜の午後に行われるカバーづくりの打ち合わせでは、このタイトルがインスピレーションの源になりました。

まず出てきた案は楽観的なものでした:

 

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両方のスケッチに青空が描かれています。女性のマスクはパンデミックを表し、右のスケッチは文字通り「青空思考」つまり既成概念にとらわれない独創的発想を求める私たちの想いを表しています。

 

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このスケッチにも楽観姿勢が垣間見えます。虹は、人類と地球の間の新しい契約を表しています。左側のスケッチにはウイルスが登場しますが、右側の笑顔は未来を志向しています。


しかし、世界の新型コロナウィルス感染者数が確認されているだけで500万人に達しようとしており、今週号の本誌でもまだパンデミックがもたらしている多くの苦難を取り上げる中で、楽観主義を示唆するのは間違っていると感じました。そこで、私たちは新たな案の検討に移りました。

 

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空のソケットはなかなかいいアイデアでした。シュールレアリズムの画家ルネ・マグリットの作品を思い起こさせるところがあります。でもそれより良かったのが、煙突から立ち上る煙をつかむ手のスケッチでした。そこでこの素案をさらに練ると、次のようなデザインが生まれました:

 

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 たなびく煙を力強く握りしめてへし折る、というあり得ない構図には緊張感があります。気候変動がテーマのカバーは往々にしてパンチ力に欠けるのですが、この斬新なイメージがその懸念を払拭しています。煙の角度をもっと急にして、へし折る力の強さを強調して描いてもらうと、以下の案が上がってきました。

 

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クリーム色の図案は少しインパクトに欠け、一方で赤い拳はあまりにも印象が強すぎました。最終的には全体として落ち着いた色彩に決めましたが、赤い拳の力強さを思い出せるよう、煙突の先端に赤い指し色を入れました。 

 

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こうして色調も決まった後、残すはサブタイトルのみとなりました。案として挙がっていたのは「なぜ新型コロナウイルスは気候問題に好機をもたらすのか(Why covid-19 is an opportunity for the climate)」。でも、ウイルスと二酸化炭素を直接結びつけたこの表現は、今週号のテーマの転換をどこか無理やりなものにしている感じがして腑に落ちませんでした。すると幸いなことに、編集者の一人がもっと柔らかくてエレガントな表現を思いついたのです:「気温上昇に歯止めをかける好機(The chance to flatten the climate curve)」。これで決まりでした。


こうして無事、テーマを転換した今週号の表紙が完成しました。しかし、だからといって、来週号も表紙から新型コロナウイルスを外せるかどうかは、まだ誰にも分かりません。

***

 

今回の編集部ウラ話を読んで、The Economistが読者の心情や背景事情にも配慮しながら、いかに慎重に表紙のデザインを決めているかを知りました。The Economistは世論におもねず自説をはっきりと主張することで知られていますが、ただ新奇性を狙い読者を煽るのとはわけが違いますね。こんな一面も、The Economistが世界中の読者の厚い信頼を得ている一つの大きな理由なんだと思います。

 

さすが、The Economist

 

それではまた。

 

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各国は今こそ気候変動対策を進めよ(2020年5月23日)

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今週号のLeaders(看板記事)のタイトルは↓

 

A new opportunity to tackle climate change
Countries should seize the moment to flatten the climate curve
The pandemic shows how hard it will be to decarbonise—and creates an opportunity


各国は今こそ気候変動対策を進めよ
パンデミックは脱炭素化の難しさを浮き彫りにしたが、チャンスも生み出している

 

新型コロナウイルスパンデミックと同様に、地球温暖化による気候変動も、世界的な規模で人類に影響を及ぼす大きな問題です。この記事は以下の文章で始まります:

FOLLOWING THE pandemic is like watching the climate crisis with your finger jammed on the fast-forward button.

パンデミックの展開は、気候変動の危機の展開を早送りボタンを押しながら見ているようなもの」。つまり裏を返せば、気候変動の影響はパンデミックよりゆっくりと進行しているので、日頃から意識することが少ないのですが、実はパンデミックを上回る甚大かつ長期的な影響が、将来の人類を待ち構えているのです。

 

こちらの和訳をNoteで2回に分けて共有していますので、どうぞご覧ください。

 

次回はこの表紙イラストについての編集部ウラ話を共有します!

 

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新型コロナウィルスはグローバリゼーションを葬ったのか?(2020年5月16日)

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今週号のLeaders(看板記事)のタイトルは↓


Globalisation unwound
Has covid-19 killed globalisation?
The flow of people, trade and capital will be slowed

新型コロナウィルスはグローバリゼーションを葬ったのか?
人、貿易、資本の流れが鈍化する

 

The Economist金融危機あたりから長年、グローバリゼーションの衰退を警告し続けてきたのですが、新型コロナウィルスのパンデミックがとどめを刺した、と考えているようです。記事は、以下の文章で始まります:

 

EVEN BEFORE the pandemic, globalisation was in trouble. The open system of trade that had dominated the world economy for decades had been damaged by the financial crash and the Sino-American trade war. Now it is reeling from its third body-blow in a dozen years as lockdowns have sealed borders and disrupted commerce.

 

世界的な危機が起こったときにグローバルなリーダーシップを発揮してきた米国が近年は内向きになり、一方で急速な経済成長を背景に台頭してきた中国はその役割を引き継ぐ意欲も資格もない、と「グローバルガバナンスの欠如」を憂えています:

 

The underlying anarchy of global governance is being exposed. (中略)America has been reluctant to act as the world’s leader. Chaos and division at home have damaged its prestige. China’s secrecy and bullying have confirmed that it is unwilling—and unfit—to pick up the mantle.

 

こちらの和訳をNoteで2回に分けて共有していますので、どうぞご覧ください。

 

note.com

 

ちなみに、後編に

 

エアバスは生産の3分の1を削減し、グローバリゼーションの象徴であるエミレーツ航空は2022年まで回復は見込めないとしている。(原文:Airbus has cut production by a third and Emirates, a symbol of globalisation, expects no recovery until 2022.)

 

というくだりが出てきます。エミレーツ航空ってグローバリゼーションの象徴なの??調べてみたところ、エミレーツ航空が拠点とするドバイそのものが、グローバリゼーションの申し子でした。以下の記事がとっても参考になりました↓

派手に見えて中身は堅実、ドバイの知られざる顔 – 國學院大學

 

それではまた。

 

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Wilt Disney:ディズニーの苦境

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The Economist(2020年5月9日号)が、突然の苦境に陥ったディズニーの状況を記事にしていました。

 

Cruising for a bruising
Parks and resorts powered Disney’s growth. Then came covid-19
Disney has diversified into exactly the wrong businesses for a pandemic

 

ディズニーの苦境:パンデミック裏目に出たパーク・リゾート部門の拡大戦略

 

赤文字の見出し。訳出するなら「痛みへの船出」でしょうか。クルーズ船も運営しているディズニー社のビジネスをcruising、そして同社がパンデミック下で被っている膨大な損失をbruisingで表しています。

 

そしてこのブログ記事の見出しにも使った、Wilt Disney(しおれるディズニー)。もちろん、Walt Disneyをもじったものです。The Economistの記事中の図で使われている表現です。

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こちらの記事の和訳をNoteで公開中です↓↓↓

note.com

 

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コロナ後にオフィスデザインは変わるのか?

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パンデミックを経験後の出張はきっと様変わり。では毎日通うオフィスの環境は?

The Economist最新号のBusiness記事は、そんな身近な話題についても考察しています。

 

(原題)

Don’t stand so close to me
Office design may need to change

 

(和訳)

近寄らないで:オフィスデザインは変わるのか?

 

オフィスワークとソーシャルディスタンスは本質的に両立しない。そもそもオフィスの存在理由が、同僚との共同作業のためだからだ。パンデミック関連の規制が解除されてオフィスに人が戻り始めたとき、オフィスを持つ会社は多くの課題に直面することになる。


基本的なことから見ていこう。ほとんどのオフィスでは、多くの人が同時に出入りする。2メートルの間隔を空けてオフィスに入るとなれば、路上にまで入場待ちの列ができるかもしれない。多くの人は、パンデミックが記憶から消え去るまでは公共交通機関の利用を避けたいと考え、自転車通勤を選択するかもしれない。ところが、仮にオフィスに更衣室があったとしても、狭い更衣室で社会的距離を保つのは難しい。


エレベーターはさらに大きな問題だ。通常の状況でも、高層ビルで働く人々はしょっちゅう、エレベーターに乗るのに長時間待たされている。それが一度に2人か3人しか乗れなくなれば、待ち時間はもっと長くなる。訪問者が団体で到着した場合は一体どうしたらよいというのか。


やっと自分の机にたどりついたとしても、別の問題がある。近年は、オフィスの高密度化が進んでいる。不動産コンサルタント会社JLLのジョン・ニール氏によると、英国では、一人当たりの仕事スペースは2018年までの10年間で約25%減少したという。ソーシャルディスタンスのルールにより、オフィスに収容できる人数は激減する可能性がある。建築系会社Arupのニック・ジャクソン氏によると、ロンドン中心部のオフィスビルでは、机と机の間に2メートルのスペースを設ければ、収容できるスタッフ人数はパンデミック前の30~35%に減少するという。


短期的には、これらの問題の答えは明白だ:在宅勤務か、あるいは交代での出社(例:週2日)を命じればいい。それによって共同作業による新たな発想は制限されるだろうが、ルールがないよりはマシである。もっと難しい問題は、長期的にオフィスのデザインが変わるのかということだ。


パンデミックの前に現れたハイテクソリューションの中には、ここ最近で新たに注目されているものがある。英国の大手企業ザハ・ハディド・アーキテクツは、アラブ首長国連邦の都市シャルジャに環境に優しいビルを設計した。「非接触通路」の採用によって、ここで働く人は手で建物に触れる必要がほとんどない。ドアはモーションセンサーと顔認識で自動的に開き、エレベーターも(飲み物のオーダー同様に)スマホで操作する。


新型コロナウィルスの感染拡大で、新たなアイデアも出てきた。不動産サービスグループのクッシュマン&ウェイクフィールドが設計したアムステルダムのオフィスでは、エントランスに手指消毒器やタッチフリードアが設置されているだけでなく、机の下のカーペットが色分けされており、社員の密接に気づきやすい。出社した社員はノートパソコンを置くための紙のデスクパッドを手に取り、退社時には捨てる。また、床には矢印が描かれ、社員は時計回りに移動する決まりだ。


どれもいい考えだ。少なくとも数週間はこれらが効果を発揮するだろう。しかし、しばらくたつとルールは破られるに違いない。例えば、バートがやや離れたところに立っている同僚のアーニーと話をしたい場合だ。バートはルールに従って時計回りに、つまり遠回りをしてアーニーに近づかなければならないが、反時計回りならほんの3メートルの距離だ。バートは本当に遠回りをするだろうか?心配はそれだけではない。オフィスでは共用のアイテムを介してウイルスが拡散する可能性も大である。やかんの取っ手やコピー機の操作ボタン。The Economist編集部が愛してやまないお菓子の入ったキャビネットなどは危険極まりない。


オフィスで新たに重視されるのは清潔さである。施設管理者は、ダグラス・アダムスSF小説「宇宙の果てのレストラン」の話を肝に銘じることになるだろう。この小説では、ゴルガフリンチャン人が「電話消毒士」をその他の役立たずの人々(保険の営業マンや経営コンサルタントなど)と一緒に宇宙船に乗せて追放してしまうのだが、やがて汚染された受話器を介してウイルス感染が拡大し、とうとう絶滅してしまうのである。

 

感染拡大を抑えるために空気清浄システムを改善することも考えられる。ある研究は、空気の質を改善するための追加コストは、2年以内に生産性の向上と感染拡大の縮小という形で回収できるとしている。
しかし、すべての改善が費用対効果に優れているわけではない。従業員同士の間隔が狭いのは、オフィスの賃料を削減するためである。ワクチンが開発されソーシャルディスタンスが不要となったときに、企業はオフィス環境の再設計を割に合う投資と考えるのだろうか。


清潔さの向上といったいくつかの要素は存続するかもしれない。パンデミックは、ウェブ会議や在宅勤務へのシフトを加速させるだろう。企業は、飛行機のファーストクラスのようなパーソナルな空間をオファーすることで、有能な社員を獲得しようとするかもしれない。だが、ほとんどの従業員は、依然としてエコノミークラスに詰め込まれることになるだろう。
***

 

(所感)

文中に下線を引いた場所が3つあります。

 

まずは共同作業による新たな発想

これ、原文は This will limit serendipity but is better than nothing. セレンディピティってカタカナ語、まだ市民権を得ていないと思ったので。

 

そしてThe Economist編集部が愛してやまないお菓子の入ったキャビネットなどは危険極まりない。

原文はThe much-loved snack cupboard at The Economist is probably doomed. 編集作業に行き詰ったとき、ついついお菓子の棚に手が伸びちゃうのは万人に共通?!いろんな人の手あかがベタベタついててめっちゃ危ない、ってことですね:-)

 

そして割に合う

原文はoffice redesign is worth the candle. キャンドルに値する=割に合う。数年たてばワクチンもできてソーシャルディスタンスも不要になると予想できる中で、企業は今、高いコストをかけてちゃんとオフィスを改修するだろうか?という疑問です。

 

それではまた!

 

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