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英エコノミスト(The Economist)の最新記事を日本語で紹介しつつ、日々の気づきを徒然につづります

コロナ後にオフィスデザインは変わるのか?

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パンデミックを経験後の出張はきっと様変わり。では毎日通うオフィスの環境は?

The Economist最新号のBusiness記事は、そんな身近な話題についても考察しています。

 

(原題)

Don’t stand so close to me
Office design may need to change

 

(和訳)

近寄らないで:オフィスデザインは変わるのか?

 

オフィスワークとソーシャルディスタンスは本質的に両立しない。そもそもオフィスの存在理由が、同僚との共同作業のためだからだ。パンデミック関連の規制が解除されてオフィスに人が戻り始めたとき、オフィスを持つ会社は多くの課題に直面することになる。


基本的なことから見ていこう。ほとんどのオフィスでは、多くの人が同時に出入りする。2メートルの間隔を空けてオフィスに入るとなれば、路上にまで入場待ちの列ができるかもしれない。多くの人は、パンデミックが記憶から消え去るまでは公共交通機関の利用を避けたいと考え、自転車通勤を選択するかもしれない。ところが、仮にオフィスに更衣室があったとしても、狭い更衣室で社会的距離を保つのは難しい。


エレベーターはさらに大きな問題だ。通常の状況でも、高層ビルで働く人々はしょっちゅう、エレベーターに乗るのに長時間待たされている。それが一度に2人か3人しか乗れなくなれば、待ち時間はもっと長くなる。訪問者が団体で到着した場合は一体どうしたらよいというのか。


やっと自分の机にたどりついたとしても、別の問題がある。近年は、オフィスの高密度化が進んでいる。不動産コンサルタント会社JLLのジョン・ニール氏によると、英国では、一人当たりの仕事スペースは2018年までの10年間で約25%減少したという。ソーシャルディスタンスのルールにより、オフィスに収容できる人数は激減する可能性がある。建築系会社Arupのニック・ジャクソン氏によると、ロンドン中心部のオフィスビルでは、机と机の間に2メートルのスペースを設ければ、収容できるスタッフ人数はパンデミック前の30~35%に減少するという。


短期的には、これらの問題の答えは明白だ:在宅勤務か、あるいは交代での出社(例:週2日)を命じればいい。それによって共同作業による新たな発想は制限されるだろうが、ルールがないよりはマシである。もっと難しい問題は、長期的にオフィスのデザインが変わるのかということだ。


パンデミックの前に現れたハイテクソリューションの中には、ここ最近で新たに注目されているものがある。英国の大手企業ザハ・ハディド・アーキテクツは、アラブ首長国連邦の都市シャルジャに環境に優しいビルを設計した。「非接触通路」の採用によって、ここで働く人は手で建物に触れる必要がほとんどない。ドアはモーションセンサーと顔認識で自動的に開き、エレベーターも(飲み物のオーダー同様に)スマホで操作する。


新型コロナウィルスの感染拡大で、新たなアイデアも出てきた。不動産サービスグループのクッシュマン&ウェイクフィールドが設計したアムステルダムのオフィスでは、エントランスに手指消毒器やタッチフリードアが設置されているだけでなく、机の下のカーペットが色分けされており、社員の密接に気づきやすい。出社した社員はノートパソコンを置くための紙のデスクパッドを手に取り、退社時には捨てる。また、床には矢印が描かれ、社員は時計回りに移動する決まりだ。


どれもいい考えだ。少なくとも数週間はこれらが効果を発揮するだろう。しかし、しばらくたつとルールは破られるに違いない。例えば、バートがやや離れたところに立っている同僚のアーニーと話をしたい場合だ。バートはルールに従って時計回りに、つまり遠回りをしてアーニーに近づかなければならないが、反時計回りならほんの3メートルの距離だ。バートは本当に遠回りをするだろうか?心配はそれだけではない。オフィスでは共用のアイテムを介してウイルスが拡散する可能性も大である。やかんの取っ手やコピー機の操作ボタン。The Economist編集部が愛してやまないお菓子の入ったキャビネットなどは危険極まりない。


オフィスで新たに重視されるのは清潔さである。施設管理者は、ダグラス・アダムスSF小説「宇宙の果てのレストラン」の話を肝に銘じることになるだろう。この小説では、ゴルガフリンチャン人が「電話消毒士」をその他の役立たずの人々(保険の営業マンや経営コンサルタントなど)と一緒に宇宙船に乗せて追放してしまうのだが、やがて汚染された受話器を介してウイルス感染が拡大し、とうとう絶滅してしまうのである。

 

感染拡大を抑えるために空気清浄システムを改善することも考えられる。ある研究は、空気の質を改善するための追加コストは、2年以内に生産性の向上と感染拡大の縮小という形で回収できるとしている。
しかし、すべての改善が費用対効果に優れているわけではない。従業員同士の間隔が狭いのは、オフィスの賃料を削減するためである。ワクチンが開発されソーシャルディスタンスが不要となったときに、企業はオフィス環境の再設計を割に合う投資と考えるのだろうか。


清潔さの向上といったいくつかの要素は存続するかもしれない。パンデミックは、ウェブ会議や在宅勤務へのシフトを加速させるだろう。企業は、飛行機のファーストクラスのようなパーソナルな空間をオファーすることで、有能な社員を獲得しようとするかもしれない。だが、ほとんどの従業員は、依然としてエコノミークラスに詰め込まれることになるだろう。
***

 

(所感)

文中に下線を引いた場所が3つあります。

 

まずは共同作業による新たな発想

これ、原文は This will limit serendipity but is better than nothing. セレンディピティってカタカナ語、まだ市民権を得ていないと思ったので。

 

そしてThe Economist編集部が愛してやまないお菓子の入ったキャビネットなどは危険極まりない。

原文はThe much-loved snack cupboard at The Economist is probably doomed. 編集作業に行き詰ったとき、ついついお菓子の棚に手が伸びちゃうのは万人に共通?!いろんな人の手あかがベタベタついててめっちゃ危ない、ってことですね:-)

 

そして割に合う

原文はoffice redesign is worth the candle. キャンドルに値する=割に合う。数年たてばワクチンもできてソーシャルディスタンスも不要になると予想できる中で、企業は今、高いコストをかけてちゃんとオフィスを改修するだろうか?という疑問です。

 

それではまた!

 

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