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英エコノミスト(The Economist)の最新記事を日本語で紹介しつつ、日々の気づきを徒然につづります

The Economistが休校問題を取り上げました

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GWの5連休が始まりました。でも、3月の初めに突然、生活から学校が消えた子どもたちは、どんな気持ちで今年のGWを迎えたのでしょうか。5月4日に日本政府が緊急事態宣言の延長を発表したら、学校再開はまた大した議論もなく延期されるのでしょうか。大人たちが決断できぬまま、いつまで子どもたちは学習環境を奪われ続けるのでしょうか?

 

少なくとも海外先進国ではオンラインで「授業」が行われています(経済的その他の事情でアクセスできない家庭はありますが)。日本は大半が子どもたちによる「自習」です。いきなり自分で工夫して自習しろ、と言われてはや2ヶ月がすぎました。そしてその指針なき「自習圧力」はこれからいつまで続くのかわかりません。ここまでがんばってきた子どもたちすら徐々にやる気をなくし、そのうち何も感じなくなる「教育崩壊」を、大人は「医療体制維持」と「経済救済」の優先を大義名分に、この先も見て見ぬふりを続けるのでしょうか。

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(原題)

The kids are not all right
When easing lockdowns, governments should open schools first

 

(和訳)

外出規制の緩和で真っ先にすべきは学校の再開だ
2020年4月30日

新型コロナウィルスの感染拡大で、世界中の学校が休校に追い込まれている。子ども4人につき3人は、学校が完全に閉鎖されている国に住んでいる。まさに未曾有の事態である。この状況が早急に改善しない限り、子どもへの影響は甚大なものになるだろう。
季節性インフルエンザのような流行性疾患の場合は、子どもを登校させないことは有効な感染防止策になる。しかし、新型コロナウィルスに関しては、子どもが感染したり、感染源となることは比較的少ないようである。学校を閉鎖することは、感染の拡大を遅らせるという点では多少の効果をもたらすかもしれないが、他の対策ほどの効果はない。休校措置は、子どもたちの発達や保護者、そして経済にとって多大なコストをもたらす。


デンマークなどいくつかの国は、学校を徐々に再開させている。イタリアなど、秋まで休校措置を続けるとした国もある。米国では、トランプ大統領が最近、学校の再開を呼びかけたにもかかわらず、ほとんどの州は今年度中に学校を再開せず、さらに休校期間を延長する可能性もある。これは間違っている。外出規制の緩和において、各国が真っ先にすべきことの一つが学校の再開だ。


子どもを学校から閉め出すことのコストは次のようなものだ。保護者が過保護なほど子どもの勉強に付き合ったり、オンライン授業がどんなに充実したとしても、それらが現場の教師や、遊び場で身につく社会的スキルに取って代わることはできない。韓国のようにeラーニングが最も進んでいる国でさえ、バーチャルスクールは本物に劣る。最も影響を受けるのは、経済的に苦しい家庭の子どもだ。Wi-Fi環境が整っていなかったり、1台のスマホを兄弟3人が奪い合うような家庭では、Zoomによるオンライン授業は成り立たない。裕福な家庭では、高学歴の親が子どもの宿題をみたり、行き詰ったときに手を差し伸べられても、貧しい家庭ではそうはいかないかもしれない。


平時には、学校は機会の平等に役立つ。学校という場がなければ、裕福な家庭の子供たちと労働者階級の子供たちの間で学力の差は拡大するだろう。ある試算によると、ロックダウンによって学習が完全にストップした米国の8歳児は、新しい内容へ進むことができず、またすでに習った内容の多くを忘れてしまうため、秋までに数学ならほぼ1年分の学習経験を失うことになる可能性がある。


学校は親にとっても、特に低学年の子どもを持つ場合は重要である。子どもたちが大騒ぎしていて急に静まり返ったと思ったら、ソファの上にジャムのびんがひっくり返っている、という状況では、在宅での仕事の生産性は低下する。外で仕事をするにも、家で子どもの面倒をみる人が必要である。そして育児のほとんどは母親が担っているため、休校が続けば母親たちが職場での地位を失うことになる。


貧しい国ではそのコストはさらに大きくなる。多くの学校は無料の昼食を提供し、栄養不良を食い止め、子どものワクチン接種の拠点としての役割を果たしている。今、家にいる子どもたちは二度と学校に戻らないかもしれない。ロックダウンにより家族の生活が困窮すれば、子どもたちが仕事に出なければならなくなる可能性がある。それよりは学校を再開して、親が稼ぎ、子どもたちは勉強できるようにしたほうが良いはずだ。


当然、休校措置のメリットを主張する人もいる。新型コロナウィルス感染症は命にかかわる疾患であり、親は子どもの感染や、祖父母の感染源となることを望んではいない。
しかし実際には、子どもがインフルエンザにかかることは非常に多いが、新型コロナウィルスの場合は状況が異なる。感染者の接触を追跡した中国の2つの研究によると、子どもの感染率は最悪の場合でも大人と同等か、それより低い。また、子どもが感染したとしても、60歳以上の人に比べて死亡率は2000倍も低い。


また、実際に感染した子どもが知らないうちに家族に感染を広げてしまうというエビデンスも存在しない。アイスランドとオランダでは、子どもの感染が家族に感染を広げた例は1件も報告されていない。欧州連合の公衆衛生機関である欧州疾病予防管理センターは先週、子どもから大人への感染は「稀と思われる」との見解を述べた。


これらの結論の中にはサンプル数が限定的なものもある。子どもが感染源とみなされていないのは、実際にそうであるというよりは、早い段階から学校が閉鎖されているためかもしれない。よって、学校が再開すれば子どもから感染が広がることは考えられる。
したがって、学校の再開は段階的に実施すべきである。真っ先に再開すべきは保育園や小学校だ。この年代の子どもたちは最も吸収力が高く、また感染のリスクは最小とみられる。また、ほとんどの子はまだ自己学習ができず、四六時中、保護者を必要とする。小さな子どもたちは社会的距離を守れない。よって、クラスを半分に分けて、交代で登校させるようにする。


次に登校を再開すべきは、試験を控えている生徒だ。複数の国で、大きな試験が中止や延期になっている。高学年の生徒は感染のリスクが低学年の生徒より高いかもしれないが、新しいルールにはよりよく適応できる。高校では、特に1クラスの人数を減らせば、社会的距離を保つことは可能だ。


学校再開後は状況をモニターし、科学的見地から必要に応じてルールを調整すべきである。家にいなければならない子どもたちには、学校が直接連絡をとるべきである。教師にも支援が必要であろう。糖尿病の持病があるといった最もリスクの高い子どもたにちはリモートで授業を実施する必要がある。それ以外の子どもたちには、衛生面や社会的距離についての指導を行う。そして、新型コロナウィルス感染症の検査を定期的に行うべきである。


政府が強権的だと批判されることを警戒するのも分からなくはない。多くの人が従おうとしない指示をわざわざ出す政治家などいないだろう。フランスは学校の再開を検討しているが、出席は任意としている。このアプローチの問題点は、教育の不平等が進行する可能性があることだ。最近の世論調査では、裕福な家庭の48%が子どもの再登校に賛成だが、そうでない家庭の場合は17%にすぎない。英国ではロックダウン期間中、特別なニーズを持つ子どもを含め弱い立場にある50万人の子どもたちが通学を許可されているが、実際にはそのうちわずか5%しか登校していない。


最良のアプローチは、出席のルールをうまく適用することであろう。教育は義務であることを主張すべきだが、戸惑う親にあからさまに罰金を科すようなことはしてはならない。学校が再開し、安全であることが理解できるようになれば、そうした親たちも子どもを学校へ送り出すようになるだろう。政府は、無料のサマースクールの実施や休暇を短縮して授業時間を確保することで、子どもたちの学力回復に取り組むべきだ。


学校を再開することは、若者の命をリスクにさらす軽率な実験のように思われるかもしれない。しかし実際には、これもリスクのバランスをとるべきことの一つである。どのような社会においても、学校は社会的流動性の原動力である。学校を再開し、子どもたちに学びの場を与えようではないか。 
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(所感)

休校措置の延長を「間違っている」と明言したThe Economistの主張に私は100%賛成します!

それではまた。
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